「飲んでくか!」
唐突にシルバード内でクロノが叫んだ。カエルはビックリして飛び上がる。
「はぁ?」
「こんな時は飲むのが一番だ!」
「……お前が飲みたいだけじゃねえのか?」
「まあまあいいからいいから。魔王も酒、飲めるだろ?」
「……飲むとは言ってない」
「でも飲めるんだろ?」
「…………」
そして有無を言わさぬクロノの連行により、三人は酒場のカウンターに並んで座っている。
三人とも黙々と杯を重ねた。たまに他愛ないことをクロノとカエルが喋ったりするが、それでも口を開いている時間より酒を流し込んでいる時間の方が圧倒的に長い。
「お前はほんとにザルだなあ……」
「なんだもう酔ってるのか? はえーなあ」
どれだけ時間が経ったものか、顔を赤くしたカエルの言葉をクロノが笑い飛ばす。しかしカエルは特別酒に弱いという訳ではなかった。クロノが特別強いだけである。
酔いが回っても、まるで飲み比べのように飲んだ。魔王も碌に喋らないまま、クロノにも勝るかなりの量を飲んでいる。そのまま時間が過ぎ、長居しているどのテーブルの客よりもボトルを空にした頃――ようやく魔王がポツリと言った。
「……誰も望んでいない事など、百も承知だ。それでも……俺には憎まずにいる事など出来ないし、出来なかった」
ようやく吐露した心情に、クロノは魔王を見つめた後、カエルを見る。カエルは酔っ払って、幾分素直な声で言った。
「……だからぁ……己の問題なんだよ。……自分の心に素直になれって……俺の意思が……って、グランドリオンも言ってただろ」
細かい部分は適当だが、言いたい事は分かる。
「それもお前の意思なんだから仕方ないんだろ……。どっちみち俺だって、ラヴォスはゆるせねえ……ぶっ倒せばいいじゃねえか」
「カエル……」
クロノは目を穏やかに細めてカエルを見る。
「無理したってダメって事なんだろ……。俺はちょっと考えると、すぐ立ち止まっちまう腑抜けだが……それでも、それを認めたら、グランドリオンは真の力をくれたんだ……。ならいいんだよ。これで、いいんだ」
どぼどぼとクロノはカエルと魔王の杯に新しく酒を満たす。
「……俺の心とお前の心は違う。お前の心はすげー狭い。それだけだろ。寛容なお前なんて、お前じゃねえや」
「…………そうだな。」
低く、初めて魔王が他人の言う事を肯定した。
クロノは嬉しそうに、二人の背中をバンと叩く。
「ほらほらどんどん飲めよ! 飲んで忘れて、ラヴォスをやっつけようぜ!」
「ク……クロノ……俺はもう……ってああっ! お前また注いだな!!」
「カタい事言うなよ! 魔王も全然酔ってねーじゃん!」
「……顔に出ないだけだ」
「ほら、カンパーイ!」
結局それから、ちょっといい感じに収まったと見えたカエルと魔王はクロノを挟んでまた言い合いになった。といっても今度はただの酔っ払い同士のケンカである。それをクロノは止めず、ひたすら一人で楽しそうに酒を勧めるばかりで、三人は見事に酔い潰れた。シルバードの揺れに耐えられそうな状態ではなかったので、備え付けの宿に泊まり、時の最果てに戻ったのはその後である。
帰って来たカエルと魔王がこの世の終わりのような顔をしているので、待っていた仲間は心配そうにクロノに訊いた。
「ど……どうなった?」
「飲んできた」
ルッカにあっけらかんと答えるクロノ。
「はぁ!? ……」
確かに言われてみれば、二人とも定位置で気持ち悪そうにへたり込んでいる。
「仲直りしたの?」
「うーん、どうだろう?」
恐々としたマールの問いに曖昧に返したが、クロノの表情はさっぱりしていた。ハッシュが穏やかに言う。
「少なくとも、カエルさんは迷いを吹っ切ったようじゃな」
「え? どういう事?」
「グランドリオンが、嬉しそうに輝いておる……。あれが本当の、グランドリオンの姿なんじゃな……」
それに答えるように、グランドリオンがキラリと光る。
エイラは嬉しそうに笑った。
「流石 クロ 強い! エイラも 飲みたいぞ!」
「そうだな。エイラも飲みに行こう!」
ロボもどこか嬉しそうに言う。
「クロノのアルコール耐性は、常人を大きく上回っていマスネ」
「無駄な才能だわ……」
「かっこいーッ!」
盛り上がる仲間達を尻目に、カエルはふと気付いた。回復の水で二日酔いも治らないかと。
「……おい。」
同じ事を考えたのか、魔王もいつの間にか横に来ている。
二人で死にそうな顔を見合わせ、無言で回復の水を手に掬った。
「……懺悔など、する気はない。この先も。……だが、……覚えておく。」
ぼそっと言われた言葉に、カエルは瞬きして――黙って、頷いた。
回復の水は、効いたのか効いてないのか分からないが、少しだけ気分を楽にした。
