ノブレストリガーオブリージュ - 7/14

「遠征中の任務可能な隊員のリストです。なるべく戦力が偏らないようにしましたが、上位勢が今回はまとめて離れますから手薄な感は否めません」
「そうだな。期間中は自動警備システムの数を増やしてもらったから、それで大体は賄えると思うが……いざという時は、非番でもあいつに出てもらわないといけないだろう」
「そうですね」
「……遠征に慶が居たら、便利か?」
不意に投げかけられた問いに、風間は僅かに目を瞠った後、頷く。
「あいつが役に立たない場面など無いでしょう」
「……そうだな……すまない」
「……別に、謝ることはありません。太刀川が居ないからといって危ない事は無いし……本部長が迷うのも、わからなくもないですから」
 言葉の真意を無言で問われ、風間は意を汲んで続ける。
「本部長の派閥は、中庸です。近界人と敵対するのでもなければ、友好的に交流しようというのでもない。防衛だけに注力する限り、ボーダーはただの警察やレスキュー隊と変わりません。どちらかに振れる動機が無いのなら、あえて“軍人”になる必要はない。例え能力が特別優秀であったとしても」
「……」
「しかし……個人的な考えを述べさせて頂けるなら」
「何だ?」
「本部長は、“軍としてのボーダー”を知った上で、その立ち位置を選ばれた。ならば太刀川も多くを知った上で、選ぶ権利があるのでは。いずれの道でも、切り札になれる力があいつにはあるのですから」
「……。その通りだな」
「まあ、そこまで育てたのは師である本部長です。だからこそ責任を感じておられるのかもしれませんが……」
「いや……そんなおこがましい事は言えない。育ったのはあいつ自身の才覚に拠るものだ。私の指導が及ぼした影響は微々たるものだろう。ただ……あいつがあそこまで強くなければ、話が簡単だったのは確かだ」
「簡単?」
「お前の言う通り、迷っているんだ。今までボーダーにも多くの実力者が居たが、ああまで純粋に、ただ強いだけの隊員というのは居なかった。敵対派、友好派、中庸派、皆どこかには寄っていたんだが、慶はそのどれかですらない。……中庸というのも選択であり、明確な支持派閥だ。そこに縛り付けておくことが、間違っていることは理解していたんだが……自ずから意志が固まらない内に、能力が立ち位置を決めてしまうのではないかと、案じた」
「……。本部長は、能力があったが故に身を投じた任務や立場が、一度も無いのですか」
「無かった。常に目的のために、牙を研いだ結果に過ぎない」
 迷いない断言に、風間は少し閉口する。極端な師弟の、最も遠い極を見た気がした。
 しかし忍田の言っていることは、風間にも理解が出来る。太刀川の在り様はボーダーにおいて特異だ。持ち得る力で己を証明せんとする一個人というよりは、持ち得た力に証明されている一つの存在……そうした印象は、風間自身が太刀川を見ていて感じていたことでもあった。
 しかし風間は、忍田ほどその存在感を悲観的に見る必要はないと思っている。それは忍田のように保護者に近い立場ではなく、対等な……友人としての立場で見ているからこそかもしれない。
「能力が行く道を決めることが、必ずしも不幸せとは思いません」
「……そうだな」
「それに、差し出がましいことを言いますが。あいつにとってどうなのか……という考え方は、あいつの為にならないと思います」
「……どういう事だ?」
「ああいう存在が味方に居ることは、周囲にとって疑いようもない僥倖です。そして太刀川は、喜ばれると喜ぶ……そういう子供のような、単純なところがありますから」
 忍田は虚を突かれたように黙り込む。
「難しく考える必要はないと、俺は思います。……では、失礼します」