ノブレストリガーオブリージュ - 13/14

 忍田の執務室に訪れた太刀川に、賞状と封筒を手渡す。
「特級戦功おめでとう。これは報奨金だ」
「わーいやったー」
 飴を一粒もらったような反応で受け取る太刀川を複雑そうな顔で眺めた後、忍田は切り出した。
「今回はお前のお陰で本当に助けられた」
「いえいえ」
「お前がああいう動きをしていなければ、市街地への被害は免れなかっただろう。結果こそ被害ゼロだったが、今回はボーダーに多くの反省を残した。特に、迅の未来予知を頼り過ぎていた面が大きい。遠征艇と通信可能になって分かったんだが、迅が今回の襲撃を予知出来たのは遠征艇出発間際だったそうだ。遠征前にパトロールはしていたんだが、言ってみれば市街地に被害がゼロだったからこそ予知が出来なかったわけだな。しかし一般への被害がゼロだからといって惨事になる可能性が無いというわけでもない」
「なる……ほど……?」
「まあ、とにかく見通しが甘かったという事だ。それで、組織の運営方針が少し見直されることになった」
「ほお」
「今回のような事が万が一またあってはならない。遠征には高い戦力が必要だが、防衛側にも確実な戦力が常に必要だ。だから、今後は防衛主体の隊員……つまり私が主に管轄している側の隊員は、成績上位で能力が高くても、極力遠征には参加しない方針になる」
「……ええ~っ?」
 話を理解して思い切りガッカリした顔をする太刀川に、忍田は「話は最後まで聞け」と釘をさす。
「遠征に行きたいんだろう」
「うん……行きたかった……」
「なら、お前は城戸総司令官の管轄に移れ」
「え」
「城戸司令派になれば、ほぼ確定でお前なら遠征に行ける」
 口をぽかんと開けてしばらく固まっていた太刀川は、じわじわと捨てられた犬のような顔になった。
「も、もし城戸さん派になったら、忍田さんに気安く話しかけちゃダメな感じになったり……」
「なんだそれは。そんな訳ないだろ。報告書の提出先が変わるだけだ」
「へえー。今まで通り勝負申し込みに来ていい?」
「構わないぞ。今まで通り忙しければ断るが」
「うん。じゃあ移る」
「……そうか」
「うん。……心配?」
 忍田は目を見開いて、じっと答えを待つ太刀川の顔を見る。息を吐いて、忍田は「いや」と首を振った。
「……お前を心配していたつもりが、心配されなければならないのはこちらだった。もっとボーダーは強くならなければならない。……お前はどこに行っても大丈夫だ。お前は……やればできる子だからな」
 太刀川は目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。

 がさごそと、散らかっていそうな学校用鞄に報奨金と賞状を突っ込む上機嫌な太刀川に、忍田は躊躇いながら次の話に移る。
「あと、もう一つ報せがある」
「なになに?」
「三門市立大学のことは知ってるな? 警戒区域外に移転して、今年初めから既に再開している」
「ああー。東さんが通ってるとこでしょ? 風間さんも春から行くし。でも俺は成績的に無理だって。進路相談の時先生言ってた」
 なはは、と全く深刻さを見せず笑い飛ばす太刀川に、沈痛な面持ちになりながら忍田は続けた。
「……今度からその三門市立大学に、ボーダー推薦枠というものが創設されるらしい」
「ほう?」
「大学内にはトリガーの研究室がある。そこに協力する人員を増やす目的もあり……ボーダー隊員であれば、かなりの合格率で、三門私立大学に入学が許可されるらしい。……お前もその枠に入れる条件を満たしていると……唐沢営業部長からの伝言だ」
「……えっ……ええ!? 最強じゃん!!!! 受験勉強しなくていーの!?」
「違うっ! 試験自体はある! ただ合格点がかなり緩い……というだけだ!」
「ええ~~~!! 唐沢さぁん!!」
 既に進路が決定したような様子で、目を輝かせながらここには居ない唐沢を拝む太刀川に、忍田は頭を抱えた。
「……私はどうかと思うんだが……お前はただでさえ勉強しないんだから……大学受験の時ぐらい苦労して勉強すべきなんじゃないかと……」
「大丈夫だよ忍田さん! 俺はやればできる子だから!」
「自分で言うなっ!」
「よかったあ~~俺進路相談の紙まだ出してなかったんだ。忘れたら困るから今ここで書いてっていい? え~っと、三門私立大学、と……」
「私立じゃない、市立だ。……これ、提出期限先週じゃないか」
「うん。提出日にプリント忘れてて」
「お前……お前、本当に進学したいのか? 大学は勉強する所だぞ? 分かってるか?」
「でも入れればこっちのもんでしょ!」
「入って何がしたいんだ。志望動機は」
「またそれ? ……行ってみたいから」
「またそれか!」