「うっわあ……」
通りの端に配置されたB級の隊員が、目の前の光景に圧倒され立ち尽くす。
近い区間の封じ込めが完了し、合図と共にトリガーを起動した太刀川は、コートを翻して走り出すと共に殲滅マシーンと化した。
「速すぎる……!」
「なんでアレ一撃で倒せんの……?」
「閃空って先端ほど威力出るだろ? 太刀川さんは常に狙ってクリティカルヒット出せるって聞いたことある!」
「やばくね?」
「強すぎる」
「おれ弧月に変えようかなぁ……」
「変えたってあんな風に出来ねえよ」
「それでもだよ」
「太刀川さんシールド全然使ってなくね?」
「弧月で捌いてる……」
「あんなの後ろに目でもないと無理だろ」
「うっわ跳んだ!」
「グラスホッパーだ!」
「すげええええ!」
「かっけえええ!」
「俺らやる事ねー!」
討ち漏らしを始末する役割で配備されたチームだが、最早完全に観戦ムードで太刀川の姿に見入っている。
送り届けた後、その場で留まり見物している唐沢も同様だった。一体でもこちらに抜けてくれば車が大破するだろうが、そんな心配は目の前の光景を見れば霧消する。
掃討、という言葉がまさしく似つかわしい。隊員同士の模擬戦で敵なしであることは分かっていたが、物量押しの相手にでも単騎でこれだけの事が出来るものなのだと、目の当たりにしなければ唐沢は実感出来ないままだっただろう。
進行を止めずに最小限の時間と手数で標的を切り捨てていく動きに荒々しさはなく、まるでプログラムによって動く精密な機械のようだ。
全てを近接攻撃で処理しているため、トリガーによる建物の被害がほぼ無いに等しいのもボーダーにとって有能この上ない。
通信からは未達地点の封じ込め作業の進捗が報告されている。太刀川が通り過ぎた地点のチームが後半の区画に既に合流しているが、封鎖のペースを明らかに太刀川のペースが上回っていた。
『追い着いちゃうぜ忍田さん』
『慶、悪いがもう少しペースを落としてくれ。このまま最後まで封鎖が完了したら合図する』
『了解』
通信で確認を終えた太刀川は、弧月で防御しながら進行スピードを緩めた。
兵力を局地的に集中させた上でようやく後退させている現状を鑑みると、太刀川の言った通り分散して各々で迎え撃つ体制では警戒区域外へ突破されていた可能性が高い。
危機的状況の中、表立った被害ゼロで抑えた太刀川の功績は計り知れないだろう。
しかし替えの利かないジョーカーありきで初めて防衛可能だったという事実は、組織として大きな課題になる。負う責任が極端に偏った組織は脆く、あまりにも特定の駒の役割が大き過ぎれば、それが落とされた時、あるいは落ちた時に盤面は崩壊する。
それは太刀川だけではなく、今遠征に行っている隊員にも言えることだ。
遠征はボーダーの重要なプロジェクトだが、それは防衛拠点としての役割を完璧に満たして初めて可能になるものに過ぎない。盤石であることで、初めてボーダーの権威は保たれている。
今後は遠征に選抜するメンバーと防衛に残るメンバーの戦力比が慎重に議論されるようになるだろうし、あるいは防衛メンバーの戦力をより底上げする方策が追求されていくだろう。
しかしそれでも今このゲームが、特別な駒の力によって完勝したことが齎す恩恵は途方もなく大きい。
封じ込め完了の合図後、間もなく全トリオン兵の討伐は完了した。
作戦終了を聞いた待機チームが「うおおおお」と叫んでお互い手を叩き合う。
「よかったあ! 区域外だけど今回の門から結構近い範囲にじいちゃん家あってさあ!」
「俺の前住んでた家無事だった!」
「区域内でもなるべく壊れて欲しくないもんなあ」
「太刀川さんスゲー!」
子供たちがはしゃぐ声と、通信越しの指令室で同様に大喜びしている根付と鬼怒田の声を同時に耳にしながら、唐沢は感嘆の思いで煙草に火を点けた。
見通しのいい大通りに広がる壮観を眺めながら、今後について思いを巡らせる。
(……メリットは、こちらが作ればいい)
深くゆっくりと紫煙を吐き出して、唐沢は車内の灰皿に吸殻を捨てた。
