鱗翅類学者の仲間たち - 1/2

特定鱗翅類学者

「撃つなら僕を撃て!」
 錯乱しながら咄嗟に出たのであろう言葉に、エグジーは胸を内側から掻き毟られるような気持ちになった。ハリーという人間は完璧で、強大で、崇高であったけれど、知り合って間もない時分から不意にこうした気持ちにさせられることがあった。こんな風にここまで無防備に、か弱い姿を晒していなくとも、それは例えば彼の静かな眼差しが、どうしようもなく寂し気な色に見えたりした瞬間だった。
 別れたあの日からずっと、追憶の中に焦がれ求めてきた彼――エグジーの内側に深く根付いて光り続けるハリー・ハートに銃を突きつけながら、自分は完全に己のためにこうしているのだということをエグジーは自覚する。
 壁に所狭しと並ぶ幻想的な蝶の姿が挙ってエグジーを責めていた。あと少しで美しい蝶たちは彼を遠く、血も喧噪もない静かで穏やかな世界に連れ去ってしまっていたのだろう。悲しくて優しい彼の真ん中だけを。
 そんなことはとても許せることではなかった。今ハリーの背中越しに見える、見渡す限りの蝶の姿をすべて燃やしてやりたい。そして二度と彼をここから離さない。
 舞い戻ってきた彼の記憶を、魂を、たまらない気持ちで抱きしめる。背の高い彼を包み込むように、爪先立って抱え込む。
 お馴染みのこの上なく決まったスーツ姿でもなく、今は香水もつけていない筈の彼からは、綺麗な匂いがした。
 この身に起こった奇跡のすべて。それを塊にしたような人。
 豊かになった筈の掌からは最早多くのものが零れ落ち、持ち得るものは少なく、先行きは見通せない。ただこの人だけはもう絶対に失わないとエグジーは誓う。この人が、この人だけが、傍に在るならば。戻ってきたならば全ては。
 エグジーには、己の腕が彼に縋りついているのか、それとも閉じ込めているのか、自分でも分からなかった。