時既に
伏木蔵くん。この笛の音が聞こえるかい。
……よし。君にこの音を、よく覚えておいて欲しい。
これが笛の音だと知らない者にとって、この音はただの鳥の囀りか、あるいは他の音に紛れて聞き逃す雑音にしかならない。しかし覚えていれば、遠くからでも違う音とわかる。
この笛の音が学園の外から聞こえて来たら、私が君を呼んでいるという合図だ。
聞こえたら、顔を出してくれないか。忙しいようなら言ってくれればすぐ帰るから。でも笛が聞こえても、私が君を呼んでいるということは、周りの人には内緒だよ。
何より、私が持っているこの笛の存在を、他の誰にも話さないでおいてくれ。
君と内緒でいつでも会えることが知られたら、いよいよ私は曲者として、君と近づくことすら許して貰えなくなるかもしれないからね。
秘密の合図だ。そういうの、好きだろう?
別にこれを使って何か君に学園内の情報を聞こうとか、そんなつもりは無いから安心していい。
ただ、今よりもう少し……君と会う機会が欲しいと思っただけだよ。
しょっちゅうじゃなくて構わない。けど、偶然に会えるのを待つだけだと――ちょっと、足りない。
君はどうだい、伏木蔵。
そろそろ忍術学園だ。……おや。門の前に居るのは……君の担任の先生かな?
今回は堂々と呼んだから、気を揉ませてしまっただろうね。
それはそうさ。タソガレドキは一応、忍術学園とは微妙な関係だしね。その集まりに君を一人で向かわせるなんて、心配だったと思うよ。
まあ次からは“笛”を使うから心配ない。忍者らしく、忍んで会おう。
斜堂先生によろしく。
