天職

「お久しぶりですねえ」
「元気にしとったか?」
「ハイ! かなり早いんですけど仕事納めで。年が明けたらすぐ帰るんですが」
「いいですねえ、ゆっくり出来て」
「ハハ、おかげさまで。久々にオヤジとオフクロとゆっくりしますよ。で、こちらが例の熊殺しの先生ですか? お噂は伺ってます!」
「ハ、ハハ……どうも……」
 龍太郎が苦笑する後ろで、書き物をしていた俺の手は若干止まった。
 
 師走も下旬、村に訪れる人間の数も次第に増えてきた。一番多くなるのは年末近くだろうが、今時期でもクリスマスに祖父母と過ごそうとやってくる家族連れがちらほら居る。
 麻上くんとイシさんが帰宅した静かな診察室で、テレビで流れるクリスマス特集をぼんやり見ている龍太郎に声をかけた。
「お前は年末年始どうするんだ」
 ぽかんとした表情で龍太郎が顔を上げる。
「希望の日付を言えば調整する。何なら明日帰ってもいいぞ」
「ああ……」
 龍太郎は何を聞かれているのか納得したような声を出して、それからぼんやりとした顔のまま少し沈黙した。
 そして俄かに姿勢を正すと、伺うように俺を見つめて言った。
「……ずっとここに居ていいですか?」
 目を瞠る俺をどう思ったか、弱々しく視線を落として続ける。
「年末年始だし……みんな餅とか食べて……お酒飲んで……急患とか出るかもしれないし。オレ、先生が休んでる間の電話番とかもしますから……だから……」
 だから――ここに匿ってほしい、とでも頼んでいるようだった。
「……そうか」
 それでいいのか、と聞き返すことは何故か酷のように思った。
「助かるぞ」
 それだけ短く言う。
 龍太郎はホッとしたような顔をした。
 自分が助けられたような顔だった。
 
 龍太郎は何も知らない。
 だからこの村で、俺の下で鍛える意味を分かってはいないし、この診療所に所属することに積極的な意義を見出しているわけでもない。
 ただここで生きて、〝普通の〟研修医と思って働いて、そうして何の理想のためでもなく日々を過ごしている。
 今の龍太郎にとってこの村はどこにも繋がらない、閉じた狭い世界でしかない。
 それなのに、そうやって村の人たちに奉仕し、診療所に起居し、それだけを繰り返すこの日々が、唯一の寄る辺であるかのように感じられて、そんな風に縋る目で俺を見るのなら。
 ずっと居ればいい。ここに。
 俺と一緒に、その生き方をすればいい。
 
「今年は去年と違って宴会も増えるだろう。おちおち休んでいるヒマも無いかもしれんな」
「うへえ。気を付けてくださいねって、今から言っとかなきゃ」
 テレビの音だけが小さく流れる、二人しかいない広く静かな診療所で、龍太郎は来たる日々を楽しそうに笑って歓迎した。