夢一夜

 こんな夢を見た。
 目の前に子供がいる。よくよく見てみればそれは幼い頃の己だった。所々ほつれた着物は、昨日まで着ていた物のように馴染みがある。
 その頼りないほど細い脆そうな首を、己は両手で絞めていた。見開かれた大きな黒い目がじっとこちらを見上げている。呼吸を断たれた人間の顔色は赤黒く染まるものと思えたが、しかし白い顔色は石のように蒼褪めていくばかりで、ただ唇の紫だけがその身の状態を示していた。
 己はひどく、その子どもを憎んでいたように思う。現実では抱いたこともないような強烈な感情をもって、夢中にその首を絞めていた。体験したこともない感情をどうして夢で抱けるのか今となっては不思議だった。
 絞める力にはまったく手加減というものをしなかった。細い首はごきんと折れたような気がする。
 しかしその後の記憶が繋がっていない。

 気付いたら己は軍服を着た男の上に馬乗りになっていた。軍服を着た男は成長した己だった。まだ小さな手には余る軍刀の切先を、喉仏の浮いた首へと押し当てる。視界の端に自分の着ている着物の解れているのが目に入った。
 真っ黒な目がじっとこちらを見上げている。なんの感情も読めない目だった。実際なんとも思っていないようだった。
 喉の柔らかそうなところへ切っ先をずぶりと沈ませる。どこまで挿せば血が出るのか分からないと思いながら思い切り刺した。白い皮膚は餅のように伸びて、やがてぶつんと裂けた。

 そのうち結局、お互い殺しても殺せないのだということが分かった。考えてみれば当然の気もした。子どもの己を殺せば大きくなった己は存在しない筈だし、己がまだ子どもならば大きくなった己など未だ存在しない筈なのだ。
 不可思議な気分で己は己を眺めていた。折った首がずれて居心地が悪く、刺した首がすーすーとして気持ちが悪かった。
 やがて酷く寒さを感じたので、お互いに身を寄せ合って、ひとまず眠った。とても静かだった。