「で……でもボク……武道家になんかなりたくない……え、えらい学者さんになりたい……」
人っ子ひとりいない荒野へ誘拐してお前を戦士にすると一方的に告げた己に対し、怯えながらもそうした意思表示を見せてきたのは、本当に初対面の時だ。まだ自身の中に潜む力も知らず、泣き虫で、甘ったれで、戦いのことなど何も知らなかった子供。
その時点で既に、悟飯は将来において成し遂げたいことを決めていた。そして全くブレないまま、悟飯はとうとうあの日言った通りに学者になった。「ボクの論文が載ったんです」と、はにかみながら見せてきた本の、確かに孫悟飯と書いてある頁をしげしげと眺めて、ピッコロは思わず笑って言った。
「お前は大したヤツだな」
言われた悟飯は慌てたように手をぶんぶんと振った。
「いえまだ、ボクなんて全然この分野じゃ駆け出しのペーペーで……」
「学者としての格がどうかなどオレは知らん。だがお前は確かに学者になった。ガキの頃に言った通りに」
「……ピッコロさん始め、皆さんが助けてくれたおかげですよ」
穏やかに笑う悟飯に、ピッコロは頬杖をついて鼻を鳴らす。
「だが長いこと、お前に学者になれだなんて言っていたのはお前の母親ぐらいのものだったろう。誰も彼もお前を戦士にしようとした。オレだって当初はお前を立派な魔族にしてやるつもりだったんだ。だが結局お前は初めから持っていた自身の目標を頑として譲らず、実現した。振り返ってみればオレたちの方は誰も当初の目標を達成していないのにだ」
「ピッコロさんたちの、当初の目標……ですか?」
「オレは悟空を殺して、魔族として世界征服するつもりだったが今はこのざまだ。悟空は誰よりも強くなろうとしていたんだろうし、今もそうだとは思うが、未だ叶っていない。周りの連中も悟空に勝てなかったり天下一武道会で優勝出来なかったり、まあとにかくだ――お前みたいに有言実行出来たヤツは誰もいない」
悟飯は言われた言葉に少し考える素振りを見せてから、微笑んで言った。
「目標とか夢っていうのは、叶えるために持つものじゃないのかもしれませんね」
「どういう意味だ」
「そこに辿り着くことじゃなくて、そこに向かうためにする事が自分のためになるって事が大事なんじゃないでしょうか。結果的におとうさんを倒せなくても、おとうさんを倒そうとしてやってきた事がピッコロさんのためになったなら、それはやっぱり価値のある目標だったんだと思うんです。おとうさんが誰よりも強くなろうとして、自分より強い相手に出会うと、とても嬉しそうにしているみたいに」
「……。」
「ボクも学者になれてもちろん嬉しいですけど、それ以上に勉強が好きなんです。申し訳ないですけど、戦士とか、魔族……? に、なるための鍛錬よりも。だから、学者になる夢が叶ってよかったっていうより――学者を目指し続けてこれた事が、ボクにとって幸せなことだったなって」
「……そうか」
晴れやかな笑顔にぐうの音も出ないピッコロに、悟飯は目を細めてこう続けた。
「それもこれもあの時、サイヤ人から地球を守った後に学者になればいいって、ピッコロさんが言ってくれたおかげですよ」
ありがとうございます。
そう言ってニコニコする悟飯に、ピッコロは何とも言えない顔で黙った後、フンとそっぽを向く。
「あんなのは、お前を魔族にするというオレの目標のために言った方便だ」
「じゃあそのピッコロさんの目標は、ボクのためになってくれる目標だったのかも。ピッコロさんのためじゃなく」
どうもすみません。そう言ってへらりとまったく申し訳なく無さそうな甘ったれた笑顔を見せる悟飯に、ピッコロは言われたその言葉がまったく悔しくないどころか、そうだとすればその事実こそが悟飯の理屈を証明していることが悔しく、せめてもの腹いせに優秀な弟子の秀でた額をバチッと指で弾いた。
