初めての男

 あの兵藤がどうやら目にかけているらしいダンサーと知り、興味が湧いた。どう俺を動かそうとしてくるリーダーなのかに。
 だが指示を待つ俺に伝わってきたのは、彼自身のビジョンではなかった。むしろ、通電するようにこの身に感じたのは、何かが相手に伝わったという感覚。己の無意識下に存在するビジョンを、何故か彼の方が知っている。俺を読んでいる。それに沿って俺と、俺ではない筈の彼の肉体が一斉に動こうとしている。
 ――気色の悪い感覚だと思った。

 そんなリーダーが存在するという、その希少さは認める。彼に何か、オカルト染みた奇妙な才能があることも。
 だが、その在り方は俺のリーダーとしての美学からすれば全否定されるべきものだ。こんなものは、リードではない。
 そしてその反発から、嗜虐心のようなものが湧いた。そんなに俺を取り込もうとするのなら、全部呑み込ませてやろうと。

 先生にリーダーの交代を申し出て、突き放すように体勢を崩す。
 俺のリーダーとして成立させるために膝を折る必要のあったその小柄な体躯は、パートナーとして俺の腕に収めれば、笑えるほどしっくりと馴染んだ。
 そう、出来るだろうと思ったのだ。あれほど自然に俺の動きを取り込んで動けるなら。しかしその追従ぶりは、いざ本当にフォローをさせてみれば予想以上の出来だった。
 どれだけ好き勝手に振り回しても、自動でそうなるようプログラムされているかのように俺の動きについてくる。男の機動力に、リーダーでは有り得ないフォロー力で。
 専用のバリエーションを踊らせても、知らぬ動きとは思えないほどモーションは正確に再現された。

 精神だけは反抗しているのだろう。戸惑いや混乱や抵抗が、その気配から目まぐるしく伝わってくる。
 しかし俺が与えるリードの強さの前に、彼自身の意思は綺麗さっぱり押し流され、肉体と感覚だけが勝手に反応をして、こちらの求めるビジョンを即座に出力してくる。まるで、俺だけのために誂えた相手のように。
 
 俺のタイミングで足をつき、俺のタイミングで動き出し、俺のタイミングで呼吸をするその肉体に、命令をする。
 腕の中でゆっくりとその足が開き、背がゆっくりと大きく、弓なりに撓っていく。従順に。命じるがまま。

 スローアウェイ・オーバースウェイ。

 男の支えなしには成立し得ないその体勢を完璧に再現して、限界まで反った背が、俺の腕の中で震えていた。
 ……その征服感。

 一通り好きなように踊らせたら満足し、放るようにその身体を手放す。
 崩れ落ちて呆然と座り込む顔を一瞥し、踵を返した。
 何か、爽快感のような充足が胸の内に残っていた。
 それも当然かと口元を歪める。

 あんなのは、そう、例えて言うなら、犯したようなものだ。
 抵抗すればやめたのに、従順に足を開くので最後までやってしまった。
 その気になれば一曲だって踊り切れただろう。完璧な俺のテンポで。

 兵藤に相手を譲らなくて良かった。

 そんなことを思いながら、俺は機嫌よく車のキーを開けた。