長い廊下に規則的に並ぶ窓の外に、何やら得体の知れない妖怪が浮いていた。
一瞬ぎょっとしたが、通りがかっただけのようで、すぐ側にある学校の方へは興味を示す様子もなく、ふわふわと漂うように浮いている。
奇妙な、虫と獣の中間のような姿の妖怪だった。異様だが、不思議と美しく見えた。陽に透ける大きな羽根の色が、目の覚めるような明るい翠色をしているせいだろうか。照り返しの光がその色に染まって、ちらちらと窓越しに廊下の壁を染めていた。
だが廊下にいる多くの生徒は皆、窓の外など気にも留めていない。お互いのことしか見ずに、歩いて、話して、笑っている。
この翠色の光景が当たり前だからでは勿論ない。そこに何も無いからだ。だから〝普通に〟過ごしているだけ。
彼らの世界と、自分の世界は違う。同じ空間にいるようで違う。
異質なのはこちらの方なのだ。
普通の世界に居ないのは。
しかし、ふと、ずっと向こうまで続く廊下――その異界の中で――一人だけ、窓の外をじっと見つめている生徒の姿を見つけて、夏目は、胸を掴まれたような心地になった。
窓枠に手をかけ、ぼんやりと空を見上げている横顔。
その視線の先は雲ではない。遠くの山でもない。確かに、そこに浮かぶ何かの影を追っていた。
夏目ほどはっきりと妖怪が見えるわけではないという彼の目に見えたのは、曖昧な影のようなものだったかもしれない。あるいは一瞬だけ視界の端に映っただけなのかもしれない。
しかしその目は、それがそこに存在することを知っている。
降ってくる雪や、止まない雨を眺めるように、世界の模様としてそれを確かに視ている。
声も掛けられず、夏目はしばらくその光景に見入った。
仄かな翠の光に染まる友人の横顔が、額縁に入れていつまでも眺めていたいほど、綺麗なものに見えて。
