キンと澄んだ冷たい空気に大きく息を吐くと、沸騰した湯のように白くはっきりした煙が口から立ち昇る。
〝呼吸〟みたいだ、と一人しばらくその光景を楽しんだ後、最後にふーっと気合を入れて千寿郎は冷たい水に手を浸した。
凍っていないのが不思議なくらいの冷え切った温度に震え上がりながら、溜まった洗濯物を根気よく洗っていく。
始めるまでは少し勇気が要るが、夢中でやっていればあっという間だった。全て干し終え、たなびく布を達成感と共に見上げながら、氷のような両手に息を吹きかける。相変わらず白く色づいた息は、きっと熱いはずなのだが、痺れた手ではまだわからない。
そこに外から帰ってきたばかりの槇寿郎が近寄ってきて、千寿郎の隣に並ぶと声をかけた。
「冬の間だけでも女中を雇うか?」
千寿郎は突然の提案に目を瞬かせた後、緩く笑って首を振った。
「でも、女中の方でも冷たいのは同じことですし……それに僕の方は、炎の呼吸が使えますから」
どこか得意げに言う千寿郎のお人好しな言い分に、槇寿郎は呆れた声で言う。
「手を狙い通り温められるほど使いこなせてないだろ」
容赦ない正論に、千寿郎は痛手を負ったようにうっと言い淀んだ。
「で、ですから鍛錬になります……」
苦し紛れに言い返す千寿郎の手を槇寿郎がとり、両手で挟む。
その火のような熱さに、千寿郎は目を見開いて驚きの声を上げた。
「わーあったかいです!」
「それとも、洗濯は俺がやるか」
「えっダメです! 父上がやると雑です」
「ぐ……」
ばっさり断られ今度は槇寿郎が言葉に詰まる。
千寿郎はそんな父を見上げてにっこり笑うと、甘えるようにねだった。
「では、手が冷たくならないぐらい僕の呼吸が上達するまで、こうして父上が温めてくださいませんか」
「……じゃあこれから冬場はずっとこうしなきゃならんな」
「えっ! そんな! それほどかからず上達します! きっと!」
「無理だな」
「ひどいです父上!」
焦ったように責める千寿郎の情けない声に、槇寿郎は面白そうに笑った。
