魔が差して手を出したら大変抱き心地がよく大層ハマってしまった。いつフラフラ離れて何処ぞへ行くか分かったものではないので、可能な限り手を出しまくりたいところだが、相手は善がる割に好き者という訳でもないらしい。気まぐれに抱かせてくれたりくれなかったりする。気が向かなかったらしいのを強引に抱き寄せたら真顔で躊躇なく横面を引っぱたかれた時は、少し心が痛かった。
しかしどうやら何時されても嫌ではない行為というものがあるようだ。たまに殴られつつ定期的に撫で回しているうちに気付いたが、首筋から肩までの僧帽筋のあたりと、尻と腰の中間らへんはいつ撫でさすっても嫌な顔ひとつしない。その辺を撫でて大人しくなっている内に雪崩れ込むと成功率が高い。
あと、これは最近気づいたばかりなのだが、接吻をするのも好きなようだった。遊女相手にはマナーとしてあまりしない行為なので気付くのが遅れた。
牛山も接吻は好きだ。抱かんとする相手と粘膜を触れさせ合うことが気持ちよくない筈がない。皮膚の下を曝し合うようなその行為を、乗り気なんだか乗り気でないんだか分からないこの男が快く感じているらしいとなれば尚更だった。
どれだけ深く口を吸っても向こうは前戯という意識ではないらしく、これは絶対抱いても構わんだろと服を脱がそうとすると拒否される事もある。おかしな行動を窘めるようにスッと手を押し退けられながら「何をわけのわからない事をしているんだ?」とでも言いたげな顔をされるのだ。俺が間違ってるのかな?という気になってきて諦めざるを得なくなる。
しかし抱けるのか抱けないのか探りながら交わす口づけというのも中々乙なもので、牛山としても接吻だけでもいいかと思えるほどには気に入っていた。整った唇とざらついた舌の感触は単純に好かったし、何より大人しく身を預けてくる尾形の様子はどこか心をくすぐるものがある。
周囲に人目がなく、手を伸ばせば触れる距離にいた。というわけで口づけたところ、やはり抵抗はなかった。
あやすように引き締まった腰を撫でながら感触を愉しむ。舌を絡めて遠慮なく口内の粘膜を味わうように舐めしゃぶっていると、引き留めるような仕草で尾形が耳の横に手を添えてきた。もっとくれと言わんばかりに目を閉じて牛山の舌を愛撫してくる積極さに腰が重くなる。
次に進みたくて堪らなくなり、我慢できず口を離した。思わず改まって訊く。
「ほんとに接吻が好きなんだな、お前は」
どろりと蕩けたような真っ黒の瞳が、ぼんやりと見返している。艶のある唇が熱を移されて血が上っている様が卑猥だった。
尾形は吐息のように微かな声で喋った。
「ここんとこの、傷が……」
白い指が、自らの顎の線に残る特徴的な傷をなぞる。
「治ったばっかで、少し痺れてじれったいんだ」
「そうなのか」
「だからこうしてクチん中ぐちゃぐちゃにされてると、すげえ気持ちいい……」
そう言って、赤い舌が、べろ、と薄く開いた牛山の唇の間を掠めて去った。わかってもらおうとでも言うように、瞳はじっと牛山の目を見ていた。
牛山は、赤面した。顔が熱くなるのを感じる。
興奮もある、が、とにかくなにか、無性にその瞬間、照れた。こんなことは滅多にないことだった。
「もっとしてくれよ」
人の気も知らずに尾形は牛山の変形した耳を乞うように撫ぜる。無邪気と言ってもいいような様子に、牛山は思わずどもりながら何度も頷いた。
