不意に光る鱗の - 6/6

 六.

 あれほど抱き潰したというのに、翌朝まったく平気そうに朝飯を食っている尾形の姿を見て、牛山は感動を覚えた。
 女ならこうはいかない。流石鍛えた帝国軍人だけある。
 もしや物凄い掘り出し物なのでは……とじろじろと改めて尾形の姿を眺め回した。
 本人は礼ではないと言っていたが、襲われていたのを助けたのがキッカケだったことは確かだ。あの女郎を放置して助けに行って本当に良かった。気紛れだったが海老で鯛が釣れた気分だ。正直あんなにいいものだとは思わなかった。既に癖になりそうな気がしている。遊郭で噂になってしまっているらしいが、尾形がいるなら女を抱きに行かなくてもいい。

 そんな事を思いながらその痴態を振り返りつつ尾形を眺めている内に尾形は飯を食い終わり、器を持って立ち上がると牛山の傍までやってきた。
 通り道だからそのまま横切るのだろうと思ったが、牛山の前で足を止める。
 若干浮ついた気持ちで見上げる牛山に、尾形は珍しく邪気のない微笑みを浮かべると、牛山の耳元に唇を寄せて囁いた。
「悪くなかったが、普通だったな。まああんなもんだろう」
「え」
「つまんなかったから、一回だけだ。もう俺とやろうとするなよ」
 そう言うと、尾形は牛山の額の出っ張りをピン、と指で弾いて、にべもなく背を向けて去っていった。

 尾形は土方に呼ばれ、夕張行きの詳細について伝えられた。といっても、もう決まっていたことの再確認のようなものだった。昨日どさくさに紛れて貰った南部式自動拳銃を弄りながら、聞くとはなしに耳に入れる。
 どこで手に入れたのか聞かれたが、親切な男に貰ったとだけ言って濁した。
 意外にも深く追及はされない。その場にいた土方も永倉も家永も、大方予想はついているというような目つきで生暖かく見つめてくるのが若干心外だった。どういう想像をされているのだろうか。弁解しようもないので言うことも無いが。
 銃の出所の代わりに、土方は違う質問をした。
「朝からどうも、牛山が気落ちしているようだが。あんな姿は初めて見たぞ。お前、何かしたのか」
 牛山との間にあった、ここ最近のいざこざを三人とも知っている。本気かどうか分からないが、夕張への道中について懸念しているとも土方は言っていた。
 その回答も含めて、尾形は事実を簡潔にありのまま伝えることにした。つまり昨夜牛山の誘いに応じて、その上で今朝自分がこういう言葉を言って禍根を断った、だからもう夕張行きの問題は解消されたのだが、おそらくその言葉が多少牛山の自尊心を傷付けたのだろうと。
 三人はそれを聞いて呆気にとられた後、どっと声を上げて大笑いした。得体の知れなかった翁三人の、初めて目にする人間臭い反応に、尾形はびっくりして目を丸くした。笑い声に驚いて顔を見せた牛山に、三人は更に笑った。尾形と牛山は思わず顔を見合わせて、不可解さに眉を寄せて、首を傾げ合った。

<終>