# BONUS STAGE
『――悟飯さん、トランクスさん、ピッコロさん。聞こえますか?』
遠慮がちな声が頭の中に響いて、永遠のように止まっていた時が再び動き出す。
「……デンデ?」
顔を上げて悟飯が呟いた。トランクスも身体を離し上を見上げる。この世界にかつて悟空が連れてきた、新しい地球の神様。トランクスも勿論覚えていた。
一緒に呼ばれたピッコロも家から出てきて、岩場の上まで戻ってくると代表して聞き返す。
「どうしたデンデ。何か用か」
『すみません、お取り込み中に。不躾ですが、実はお話を聞かせて頂いていて……それで、トランクスさんにどうしてもお尋ねしたいことがあって……』
「はい……お久しぶりです、デンデさん。オレに尋ねたいこと、というのは……?」
『どうもお久しぶりです。トランクスさん、アナタの未来には、以前悟飯さんたちがナメック星に来れたような性能の宇宙船は、もう存在しないのでしょうか?』
トランクスは当惑しながら答えた。
「何とか一台だけ、悟空さんがヤードラットから帰ってきた時の宇宙船が保存してあります。一応構造分析したデータも残っていますし……稼働状態に持って行くことも、復興が進んでいる今なら可能だと思いますが……」
『そうですか!』
喜色を声に乗せたデンデは、『これは単なる情報に過ぎないのですが』と前置きして、宇宙における位置を表すある座標を口にした。
『これはフリーザに星を壊された後、われわれナメック人が移住した新しいナメック星の座標です。そこに行けば、新しい最長老さまが作ったナメック星のドラゴンボールがあるはずです。時間移動しなくても存在する、正真正銘、あなたの次元のドラゴンボールが』
トランクスは目を見開き、悟飯と顔を見合わせた。
ピッコロは指摘された事実に「そうか! 確かにそうだ!!」と大声を上げる。
『異星の事情への干渉は基本禁じられていますので、残念ながら人造人間に齎された被害そのものを戻して差し上げることは出来ないと思います。しかし孫悟飯さんを生き返らせたいという願いだけならば、確実にドラゴンボールを使わせてくれるはずです。その歴史ではボクが――デンデが地球に来ないまま、ナメック星に残っているはずですから。そっちのボクに悟飯さんのことを話してくれれば、絶対に協力するでしょう』
「そっか……! そうだよトランクス! いけるよ、生き返れるよ!」
手を握って満面の笑顔を見せる悟飯に、しかし急展開についていけないトランクスは、しどろもどろで躊躇いを口にした。
「し、しかし……それが仮に可能だったとして、それは、いいんでしょうか……許されることなんでしょうか……?」
「え?」
「亡くなった孫悟空さんや、ピッコロさんと、天国で安らかに過ごしているだろう悟飯さんを……オレひとりのエゴで生き返らせてしまうなんて」
「いいよ」
一秒も考える素振りを見せず、あっさりと悟飯は違う次元の自分の蘇生を許可した。そしてすぐに「あ、もちろん無理はしなくていいけど。すごく遠い星だと思うし」と付け足す。
トランクスはあまりの軽い返答に狼狽えながら必死に確認した。
「ほ、本当に、あっちの世界には何もないんですよ。生きてる人間は数万人しかいない。これからは少ない人たちで復興復興の日々が待っています。でも天国には、あなたが幸せだった頃に生きていた人たちのほとんどがいる。辛いことだってもう何もない」
「でも下界には、トランクスがいるじゃないか」
悟飯はトランクスの肩に手を置いて、勘違いを優しく教えるような声音で言った。
「ずっと辛い日々を過ごす中で、キミだけがボクと一緒にいてくれたんだろう」
トランクスは不意打ちのその言葉に、ぼろっと涙をこぼした。
「エゴなんかじゃない。そっちのボクはきっと、会えるならもう一度トランクスに会いたいと思うよ。世界を救ったキミに、よくやったって直接言ってやりたいと思う。ありがとうって言って……手伝えることがあったら手伝いたいと思う」
目の前のトランクスに、そして違う人生を送った自分に、兄のような眼差しを注いで悟飯は言った。
「叶えられるならでいい。トランクスがもしボクにもう一度会いたいと思ってくれているなら、その手段があるなら……生き返らせてあげてくれるかな」
その願いに、トランクスはもう一度だけ、この世界の悟飯のことを熱烈に抱きしめる。
「オレ、オレ……絶対に、絶対に悟飯さんにまた会います。違う世界のあなたを……オレの悟飯さんを生き返らせてみせます!」
悟飯はその叫びにくしゃっと笑って、最後にトランクスを強く抱き返した。
「うん。頼むよ」
帰還のタイムマシンをセットしたトランクスは、晴れやかな顔でピッコロを振り返る。
「ピッコロさんもありがとうございました。本当に……」
腕を組んで見守っていたピッコロは、フッと笑って餞別の言葉を口にした。
「達者に暮らせ。……そっちの悟飯とな」
「……はい! デンデさんも、ありがとうございました!」
『はい、お元気で。どうか――お幸せに』
笑顔で手を振って、トランクスは未来へと還った。
見送った後、悟飯は改めてデンデに礼を言う。
「デンデ、教えてくれて本当にありがとう、ナメック星のドラゴンボールのこと。ボクじゃ気づけなかったよ」
『いえ、お役に立てて良かったです。あのトランクスさんの時間移動から始まった一件は、ボクにとっても今の立場になった分かれ目の出来事ですし……お力になりたくて』
ピッコロも重い口調で言った。
「オレにとっても責任重大な一件だ。あっちのオレは融合する間もなく死んだのだろうが、融合していれば勝てたはずの相手だったものを……」
違う次元の自分に舌打ちする師に苦笑しながら、悟飯も不甲斐なさそうに俯く。
「それを言うならやっぱりボクが一番責任は重いんじゃないですかね。こっちではセルにも勝てたのに……やっぱり自己鍛錬がヘタクソなのかなあ。でもトランクスは強かったから、人に教えるのは多少マシだったのかな……でもあれはトランクスが頑張ったからだしなあ……」
ぶつぶつと反省していたが、ふと顔を上げるとピッコロに向き直った。
「ありがとうございました、ピッコロさん。ピッコロさんが今日トランクスを見つけて、ボクを呼び寄せてくれなかったら……」
憂いに表情を翳らせる悟飯を見下ろして、ピッコロはフンと笑った。
「あっちのオレには悪いがな」
「え?」
「せっかくあの世に来たお前が、生き返って下界に戻っちまう。だが仕方ない。死んだ方が悪いんだからな」
悟飯は思わぬことを言われたというようにきょとんとした後、へへっと照れたような、困ったような、気の抜けた笑い声をこぼした。
そして不意にピッコロの手をとると、自分の右手で柔く握る。
「また会えますから。いつか必ず」
今この瞬間のように。
ピッコロは何も言わず笑って、その手を少しだけ強く握り返した。
違う世界のお互いの、別れの握手の代わりに。
