まだまだ味がするから!!!!(※細かい内容からラストまで踏み込んだ話もしているので未見の方はネタバレ注意)
この12人の怒れる男、トータルで皆何に怒ってたかって言うと「真面目にやれ」だったと思うんですよ。
最初はたった一人、怒りというよりは仄かな憤りを抱いているというような、穏やかな口調で8番の男が議論の終了に待ったをかけます。
この後ナイターがあるんだよと鬱陶しがる男にも滔々と落ち着いて会話する。
(吹替)
「じゃあなんで無罪に手を挙げたんだ?」
「確信があって挙げたんじゃないんです。ただ、一人の少年の生死を話し合いもせず簡単に決めていものかと思って」
「俺がおっちょこちょいだってのか?」
「いえそんな」
「オレは真っ先に手を挙げたよ? 奴が有罪だと信じてるからだ。たとえ百年話し合ってもオレの気は変わんねえぜ」
「あなたの気を変えようと言うんじゃないんです。……これは人間の命の問題です。簡単に決めて、もし間違っていたらどうします?」
「そんなことオレが知るかよ、そこまで責任は持てねえよ。オレは好きで来たんじゃねえんだよ」
「でしょうね」
「時間をかけたからってどうなんだよ。人殺しは人殺しだ。変わりはねえだろ?」
「話し合いましょう。ナイターまでまだ時間はあります」
「(肩をすくめて折れる)」
しかし、その後「いいとも。どうせ時間つぶしだ。とっておきのジョークを…」とニヤニヤしながら話し出したじいさんにはキッと睨み付けて「私は真面目に言ってるんです」とマジギレ。初ギレ、初怒りです。
野球好きおじさんは態度こそヘラヘラしてて自分のことしか基本考えてないものの、他人に割ける僅かなキャパシティで一応自分なりの考えってものを少年に関して持った上で疑問をぶつけてくる。それに対して、ニヤニヤ偉そうな方のおじさんは端からマトモに思考を割こうとすらしてないですからね。
この「私は真面目に言ってるんです」という怒りこそがすべての怒りのスタート地点です。
みんな始めは「な~に分かりきったことを今更…w真面目な顔して…w」というノリだった。それが話し合いを続けていくうちに、次々と「真面目にやれ!!」とマジギレする側に回っていく。
人間がどうでもいい他人の命、人生のために〝マジ〟になっていく過程を描いてるんです。それはつまり『正義』の話ってこと…!!
で、いきなりラストの話しますけど、こうやって皆で蒸し暑い室内で汗掻きながら直接話したこともない赤の他人の少年のために赤の他人同士で白熱した議論を重ねて自分の良心と向き合って、その結果「無罪で満場一致する」以上の何かが起こるわけではないところが良い!!
最後の最後、ミスマープルポジだった最高齢のおじいさんが追いかけてきて、「お名前は?」と尋ねる彼に8番の男が名乗り、おじいさんも名乗り、お互い握手し合う。それだけ。
握手が済んだ後別に他に何があるわけでもないのでおじいさんは「それじゃ、さようなら」とアッサリ別れを告げ、8番の男も「お元気で」と見送って別れる。それだけ。それがいい!!
だって彼らは自分という人間のためにあそこまでマジレスを交わし合ったわけじゃないから。自分と社会の間に交わした正義のために、あくまで平等な一票の重さでもって、最初から最後まで個の責任においてそこに参加していただけだから! 別にそこから友達付き合いが始まるわけでもないし二度と会うこともないでしょう!! ただそれぞれが軽やかに雨上がりの空の下裁判所前の階段を下りていくことが出来る、後に残るのはそれだけ!! かっこよすぎる!!
また主人公の8番の人の抑制が効いた表情が本当にイイんですよね…。
常に理性的で…でも決して何も感じてないわけじゃないことが端々からわかって…。それは優しさとか陳腐なことじゃなくて、もっとこう義侠心というか…一番印象的なのは一番最後に退出する時、皆で議論を重ねたその室を、卓を、しみじみと一度だけ振り返って眺める仕草です。
〝思うところがあるんだな〟ということはハッキリと分からせる。でもそれが具体的にどういう感情なのか、型に落とし込めるような派手な感動は見せない。ただじっと何かを思っている。
これこそ抑制ってやつですよ…。渋すぎる…。
ところで話は変わりますが吹替が素晴らしいですねこの映画。というかアマプラの字幕が自動翻訳の字幕しか無くて酷い。
もしこの映画字幕で見たら全然面白くないと思う! 絶対に吹替でしか見て欲しくない!!
特に良い翻訳~と思ったのは下記の「公算が強い」って言い回し。
(吹替)
「分かるんじゃなく可能性が高いと言ってるんです! だから窓から外を見た時も眼鏡を外していた公算が強いんだ! 彼女は寝返りをうった時たまたま事件を見たと言っている! 慌てて眼鏡をかけてもその時は明かりが消えていますよ!」
(オリジナル音声)
I don’t know.
I’m guessing.
I’m also guessing that she probably didn’t put her glasses on when she turned and looked casually out of the window.
And she herself testified the killing took place just as she looked out.
The lights went off a sprit-second later.
She couldn’t have had time to put them on then.
(私のザコ直訳)
「分かるわけじゃない推測が出来ると言っているんです。だからこうも考えられる、彼女はおそらくかけていなかった彼女の眼鏡を、彼女が振り返り何気なく窓の外を見た時には。
しかもまさに彼女が彼女自身で見たと証言する殺害の場面では、明かりはほんの一瞬後に消えています。彼女は眼鏡をかける時間などなかったでしょう」
英語の言い回しに対して吹替は口に合わせた上でなんてスマートに日本語化するんだ! と感動してしまいます。
ちなみに以下は同シーンのアマプラ字幕。
(アマプラ字幕)
「推測ですよ ふと窓の外を見た時も掛けていなかった 見た途端 犯行があった 眼鏡を掛ける暇もなかった」
ロボットかよ!(ロボットによる翻訳です)
そもそも英語には丁寧な言い回しという概念はありますが敬語という概念が無いので登場人物基本全員タメ口なのが物足りなさすぎる。
吹替は丁寧な再翻訳によって主人公の紳士さが4割増してる!! 話の面白さも4割増してる!!
あと吹替は端々の言い回しで「お前が言うな」感がメチャクチャ増してるんですよ。このウィットに富んだ感じは直訳だと出ないと思う。
(吹替)
「横からギャーギャーわめくなって!」(発言者の男は始終横からギャーギャーわめいている)
(オリジナル音声)
Don’t give me that.
(アマプラ字幕)
もう やめろ
字幕だと全然面白くない!!
他にもスマートな翻訳だと思った緊迫のシーン。
(吹替)
「それでも男かよ!! あのガキが有罪なのはわかり切ってる! さっさと電気椅子に送り込んじまえ」
「なんてことを! あなた死刑執行人ですか!?」
「だったらどうする!!」
「……自分でスイッチを入れたいんでしょう」
「あのガキなら喜んでやるね!」
「そんな恐ろしいことを平気で言えるあなたにかえって同情します! ここに入ってきた時からあなたの態度は血に飢えた復讐鬼のそれだった。単に少年の血が見たい、それだけで彼を有罪にしたいんでしょう? あなたはサディストだ!」
(オリジナル音声)
-What’s the matter with you guys?
You all know he’s guilty!
He’s got to burn!
You’re letting him slip through our fingers.
-“Slip through our fingers”?
Are you his executioner?
-I’m one of them.
-Perhaps you’d like to pull switch.
-For this kid, you bet I would.
-I feel sorry of you. What it must feel like to wanna pull the switch.
Ever since you walked into this room, you’ve been acting like a self-appointed public avenger.
You want to see this boy die because you personally want it, not because of the facts.
You’re sadist.
(私のザコ直訳)
「お前らどうしちまったんだ? 奴は有罪だと分かり切ってるだろ! 奴を電気椅子に送れ! 俺たちの指から奴をすり抜けさせる気か?」
「『俺たちの指から奴をすり抜けさせる?』 あんた彼の死刑執行人か?」
「その一人だ」
「きっと自分でスイッチを押したいんでしょうね」
「あのガキなら喜んでそうするね」
「同情を覚えますよ。どんな気分でしょうね、そんなスイッチを押したくてたまらないとは。この部屋に入ってきた時から、あなたの態度はまるで社会を代表する復讐者のようだった。あなたが彼の死を見たいのは個人的な欲求だ、事実のためじゃない。あんたはサディストだ」
(アマプラ字幕)
「どうしたんだ? やつは有罪だ 電気いすさ!」
「君は死刑執行人か?」
「その1人だ」
「君がスイッチを?」
「入れてやるさ」
「よくそんな気持ちになれるもんだ 社会の復しゅう者を気取っているのか 個人的な憎しみで殺したいのか サディストだ」
IQが後半に行くにつれて下がっていく~~~~!!
逆にアマプラ字幕は小学生とかが見るならむしろ一番適してるのかもしれないと思い始めてきた。(小学生が見て楽しい映画ではないだろ)
あと激シブのこの台詞。
(吹替)
「本当に殺すつもりで言ったんじゃないんでしょう?」
(オリジナル音声)
You don’t really mean you’ll kill me, do you?
(アマプラ字幕)
「殺す気はないだろ?」
アマプラ字幕、いちいち省略しすぎなんだよな…。
「少年が殺してやると叫んでいる声を聞いた人間がいる、だから殺意があった」と主張して憚らず、そのぐらい本当に殺す気が無くても言うことだってあるという周りの意見に断固として耳を貸さなかった男が「殺してやる!」と自分に向かって怒鳴ってくるのに対しての台詞なんですよ。
アマプラ字幕でも深読みすればそういう意図(相手の主張への意趣返し)で言ってるって分かる気もするけど、やっぱ吹替の言い回しが秀逸だと思うな~!
「本当に殺すつもりじゃなくても怒りだけで殺してやると口走ることもあるのが人間だろ、ほら」っていう意図がオリジナルの言い回しよりスパッと明確になってると思う。
あと敬語だけでなく口調で個性が強まってるのもいいですね。特に眼鏡の人。
(吹替)
「やめたまえ。金輪際あなたの話など聞きたくないね」
(オリジナル音声)
I have. Now, sit down and don’t open your mouth again.
(アマプラ字幕)
「聞いたよ 座って二度と口を開くな」
吹替はこの眼鏡の人の神経質そうなキャラ付けが非常にうまくいってると思いますね!
特に好きなのが下記のシーン。
(吹替)
「私は見た。……もっと早く気付くべきだった」
(オリジナル音声)
I did, Strange, but I didn’t think about it before.
(私のザコ直訳)
「私は見た。しかし奇妙だが、これまでそのことに気付いていなかった」
(アマプラ字幕)
「見たよ 今になって思いだした」
この「早く気付く〝べきだった〟」って言い回しでこの眼鏡の人のことめちゃめちゃ好きになっちゃったからやっぱり吹替が至高です!!
意訳なのかもしれないけど、この人はこの人なりの真面目さでもって有罪側に立ってた人ですからね。真面目にやれ、がテーマだけあって有罪側にいることにガチな奴ほど手ごわい。(ガチの方向性はそれぞれとして)
彼なりのプライドを持ってそちらに立っていた人、ということで「べきだった」という言い回しはすごく彼のキャラ付けの解像度を上げているなあと。
実際最後まで残ってたあとの二人はちょっとメンタルに問題ある人だったので、実質彼がラスボスだったと思います。だからこの陥落のひとことを言うシーンが大好き。
でも息子憎しの男のクライマックスシーンはアマプラ字幕がわりと好きかも。
(吹替)
「生意気なガキどもはみんな死んじまえばいいんだこのクソッタレめ!」
(オリジナル音声)
Rotten kids. You work your life out!
(アマプラ字幕)
「ドラ息子め この親不孝が!」
このアマプラ字幕の言い回しの方が吹替よりもオリジナルからは離れてると思うんだけど、結局自分の息子への愛憎が彼の頑なさの根底だったっていうキャラ付けの補強としては写真の息子単体に対して罵っちゃうアマプラ字幕のセリフの方が好み。
いやー言語って奥深いですね。
あと被告の少年がスラム出身だからって「あいつらに理性とか無いんだ喧嘩っ早いケダモノだ」とかボロクソ言われてる時に「私もスラム出身者です」って憤りながら名乗り出た男が、後半「怒鳴るのもいい加減にしろ頭に来るぞ!」と立ち上がりかけた隣の男を「まあまあ喧嘩はまずいよ」って諫めてるシーンとか、細かい見どころがたくさんある。
やっぱ〝人間〟を描けてる物語ってすばらしい。
アマプラ見放題延長して~~~~~(むり)