変な時間に目が覚めてしまったパンの眠気は、トイレに行ったが最後、もうすっかりどこかに消えてしまった。
外はまだ真っ暗で、パンは音を立てないように暗い家の中を小走りし、一目散に端っこの部屋に向かう。
「パパ~?」
小声で呼びかけながらドアを開けると、パンの予想通りパソコンの前で起きて仕事をしていた悟飯が目を丸くした。
「あれ、パン。起きちゃったの?」
「うん。ねむくなくなっちゃったぁ」
「あとで眠くなっちゃうぞ~」
「へいきだよ。ばんごはんのまえにちょっとねちゃったの」
「そっかあ」
傍に寄ると、大好きな手が頭を撫でてくれる。パンは悟飯の膝に手をついて背伸びし、パソコンを覗き込んだ。さっぱり意味のわからない文字を見ながら訊く。
「パパはまだおしごとなの?」
「うん、でもそろそろ休憩しようかなって思ってたんだ」
うーん、と大きく伸びをする悟飯の脇腹にパンは勢いよく抱きついた。うぐ、と小さい声が聞こえる。
「ねえ、パパ! じゃあ……」
上空高く舞い上がると風が強くなって、パンはキャッキャと笑う。
「さむーい!」
悟飯はしっかりパンを抱きかかえて言った。
「風邪ひかないようにしないとね。ママに怒られちゃう」
「だいじょうぶ、パパあったかいから」
上機嫌でしがみ付くパンに笑い、スピードを緩めると悟飯は一定の高度で静止した。
「この辺でいいかな」
「わーっ、きれい!」
下を見下ろすと、この時間でも灯りの消えない都会の夜景が二人の視界いっぱいに広がっている。
「あかるいねー」
「そうだねえ」
「じいちゃんのところは、夜まっくらだったよね」
「あはは、パオズ山はねえ。でもほら、上を見てみて」
「わ~! すごい!」
悟飯の指さした空を見上げると、パンの目の前には下の夜景に負けないぐらいのたくさんの星が光っていた。
「パオズ山は夜が暗い分、もっとたくさんの星が見えるんだよ」
「へえ~」
なつかしそうな声にパンが相槌をうつと、悟飯はそのまま空中に寝そべるように仰向けになった。
星を眺めながらふわふわ浮く悟飯の上にうつぶせになって、パンは悟飯の顎を見上げながら言う。
「……ピッコロさんがねえ、空をとべるようになるには、とびたいってねがえっていうの」
「うん」
「ねがってるのにっておもってたんだけど、もしかしたらねがえてないのかもっておもった」
「うん?」
「とべるようになったら、こうやってパパにとんでもらえなくなっちゃうもん」
それはすごくやだ、とパンが深刻な表情で言うと、悟飯はあははと笑った。
「飛べるようになっても、夜はパパといっしょじゃなきゃ飛んじゃダメだよ」
「え? なんでぇ?」
「危ないから。夜にパンがおうちにいないとパパもママもびっくりしちゃうだろ?」
「でも、もうけっこうつよくなったってピッコロさんいってたよ」
「それでも心配なの」
「ふうん」
頭を撫でる手に、パンはこてんと悟飯の胸に頭を乗せる。少し安心した。
悟飯はふわ、と欠伸をしたあと、嬉しそうな声で「あ」と空を指さした。
「ほら見てパン。ちょっと空が明るくなってきた」
「ほんとだあ。ほしがうすくなってる」
悟飯はパンを抱え直すと体を起こして、地平線の方に顔を向ける。
うっすらと赤く染まりながらみるみる明るくなっていく空に、今度は悟飯が「わー、きれいだねえ」と声を上げた。
口を開けて見入るパンに、悟飯も昇り来る朝日から目を離さないまま言う。
「いつか飛べるようになったら、今度はパンがパパを連れてきてよ。星を見に」
パンが見上げると、悟飯もパンに顔を向けて、やさしく微笑んだ。
「約束」
そう言って差し出された小指に、パンは満面の笑みで小さな小指を絡める。
「うん!」
思い切り頷いた足の下で、鳥たちがおはようと挨拶するように鳴きながら、ゆったりと飛び去っていった。
