「ピッコロさ~~~~ん!!」
瞑想中だったピッコロは珍しく悟飯一人でやってくる気配に目を開け、何事かとその場で立ち上がった。
「どうした悟飯!」
「どうしたもこうしたも大変なんです~!」
部屋着のまま来ましたという格好で、悟飯は右手で眼鏡を押さえながらピッコロの前にドーンと着地した。
ピッコロはその左手が、不自然に後ろで何かを押さえているのに気がついた。
まさか……。
ピンとくるものがあり、ピッコロは冷や汗をかきつつ、とりあえず悟飯に説明を促す。
「なんだ。何があった」
「じ、実はですね……」勢い込んで来た割に、悟飯はいざ話そうとするともじもじ言い淀み始めた。「そのう……」
ピッコロは悟飯に対しては気が短かった。
苛つきを隠さずチッと舌打ちしたピッコロは、悟飯の肩をガッと掴むと問答無用でくるりと後ろを向かせた。
「あああ!」
情けない悲鳴を上げているが無視する。
そして案の定、左手で押さえていたのは見覚えのあるシッポ――かつてピッコロも辛酸を味合わされた覚えのある、サイヤ人のトレードマークだった。
「……生えたのか?」
「はい。今朝、突然……」
しょんぼりした声で言いながら左手を離すと、自由になったシッポはずり上げたシャツとずり下げたズボンの間から、伸びをするように根本からふわりとたわんだ。
「明日大学に行く用事があるのに、こんなんじゃ行けないですよ~~」
情けない表情で揺れるシッポを見下ろす悟飯に、ピッコロも「ううむ」と腕を組んで唸る。もっともピッコロが気にしていたのは今が月の出ていない昼でよかったという事だが。
「ちょっと自分でちぎろうともしてみたんですけど、やっぱり怖くて……」
悟飯はピッコロに尻を向け、目をぎゅっと瞑ると一息に言った。
「だからピッコロさん、ひと思いにやっちゃってください!」
そのまま刑の執行を待つかのごとくじっとしている悟飯をしげしげと眺めながら、ピッコロはシッポが生えたサイヤ人と戦った頃のことを思い返していた。
そういえばナッパと戦った時は弱点だと思い強く掴んだのに効かなかったのだったな、と。あの時の絶望は、割れるような頭の痛みと共に今もよく覚えている。
ピッコロは揺れている悟飯のシッポに手を伸ばすと、引っ張らないまま手に力を入れてぎゅっと掴んだ。
「あっ……!?」
悟飯の力がへなへなと抜けてがくんと膝が落ちる。
「おい、なんだその体たらくは。ナッパの野郎はシッポを鍛えていたぞ」
にぎにぎしながら言うピッコロに、たまらず悟飯が叫ぶ。
「き、鍛えるって言ったって……! 生えたらすぐ切られてばっかりで、ま、まってくださいピッコロさん、いったん、手を……」
「ついでだ、どうせまた突然生えてくるのだから鍛えてから引っこ抜け」
ぎゅう、と根元に近い部分を強く握られ「うあうっ!」と上擦った声をあげた悟飯は、とうとう尻だけ高く上げた状態でぺたりと地に這いつくばった。
横にしゃがみ込み、ピッコロは片手でシッポを掴んだまま、咎めるようにもう片方の手で悟飯の尻をバシンと叩く。
「だらしがないな。これではいい弱点だ」
言われた悟飯は羞恥に顔を歪めながら「うぅ~」と唸った。
「お、お尻叩かないでください……! シッポも掴まないでください……!」
「イヤだ」
憎たらしく聞こえるように一音一音区切って言ったピッコロは、シッポの根本を掴んだ手をそのまま千切れない程度に力を入れて先端までスライドさせる。
「ぁああ~~~~っ」
ビクビクと背を反らせる悟飯にピッコロはかなり楽しくなってきていた。
根元を二本の指で強弱をつけて揉みながら揶揄する。
「いくら強くっても、これじゃあ形無しだな」
悟飯は腰をひくひくと震わせながら、弱り切った声で許しを乞うた。
「つ、次生えてっ、きたときは……すぐっ抜き、ます、からぁ……」
「どうだかな。自分でやるのが怖いと泣きついてきたくせに」
「あっあっ」付け根の境目をぐりぐり圧迫されて、拒否するように首を振りながら逃げようとする腰を膝で押さえる。
ふわふわした毛並みに沿って伸ばすように先端を撫でつけつつ、ピッコロは俯いていた悟飯の顎を掴んで顔を覗き込んだ。
ずり落ちた眼鏡の下で涙目になった瞳が、懇願するようにピッコロを見上げる。
これだけ好きにされていても、そこには反感も怒りも恨みがましさもまるで無かった。ただされるがままピッコロの無体を受けながら、その許しと承認だけを求めて、良しと言われる瞬間をひたむきに待っている。
胸を打たれるような思いでピッコロはその顔に見惚れた。
戦いの事など何も知らなかった頃から計り知れない潜在能力を内に秘め、殻を破る度に見違えるような強さを手にして何度も生まれ変わり続ける、この世で一番強い可能性を持った生きもの。
その気になれば誰も敵わない存在でありながら、しかし根本からその気を持ち得ることを知らぬかのように、服従と表裏一体の全幅の信頼をピッコロに委ねて取り返そうともしない。
口ではしばしば弱音を吐きながらも決してピッコロの修行を拒絶はしなかった、健気で従順なあの荒野の幼子そのままに。
ピッコロは悟飯の顔を上げさせたまま、シッポの中間部分を指の関節部分でゴリゴリと刺激した。
「あっやっピッコロさ、それ、それダメですうっ」
目をぎゅっと瞑って身悶え、じっと観察されている羞恥に顔を赤らめながらも成すすべなく弱々しい姿を晒す悟飯に、ピッコロはひどく新鮮な、感動に近い何かを感じていた。
この胸がすくような、心の浮きたつような、快い感情は一体……。
悟飯が悲鳴を上げてのたうつ様がこんなにも心地好い。
「すまない悟飯。オレはやはりまだ魔族の部分が残っているようだ」
「えっ……!?」
悩ましげに眉を寄せたまま薄目を開ける悟飯をまっすぐ見つめて、ピッコロはひどく真摯な声で告げた。
「お前を苛めるのが楽しくて仕方ない」
「えっ、えっ!? あっ、ちょ、うああっ! そんなぁっ、ピッコロさ……も、もうやめ……っあ、ふあああっ! 無理、むりです! ピッコロさん! 助けっ……ピッコロさああん!」
責め苦は月が昇るまで続いた。
「あれで果たして修行になっているのでしょうか?」
困惑しつつ疑問を口にしたデンデに、ミスターポポはしみじみと目を閉じて言った。
「前の神様、一度亡くなったとき言った……ピッコロ最後に神様越えた……。つまりピッコロ、神様知らないこと覚えた……。そういうこと」
「ど、どういうことですか……? 前の神様が知らなかった事というのは……。それはやはりボクも知らないことなのですか?」
ミスターポポは重々しく頷いた。しかしすぐに付け足した。「でも別に知らなくていいこと」
本当に別にどうでも良さそうな声色だったので、デンデは首を傾げつつ、とりあえず納得した。自分はまだ経験が浅い。ミスターポポの言っている事に見当もつかないが、しかしミスターポポは分かっているようだし、その彼が知らなくていいと言うなら別にいいのだろう。
何にせよ夜になった今、ぐったりしてピクリとも動かないものの何とか悟飯は修行を負えてシッポを切ってもらえたようだ。
よかったですね悟飯さん、とデンデは一安心しながら、丁度まん丸の月を見上げて一息ついた。
