呪縛の血、祝福の肉、形代の霊、そして - 1/7

この世の贄

 ああ、父の子だと、一目見て腑に落ちた。

 特徴的な目元が父とそっくりだった。しかし目元以外の特徴、父の角ばった高い鼻筋や平らな頰の輪郭は、むしろ勇作の方に受け継がれている。だからだろうか、一番印象的な部分が似通っていても、受ける印象は全く違った。
 父の眼差しは長い年月を経た硬質な石のようだ。窺い知れぬ意思を飲み込み、澱のように揺るがぬ漆黒。しかし目の前の少し幼げな面立ちに誂えられたそれは、途方もなく透き通って見えた。まるで夜の湖面だ。何もない、果てのない闇を透かしている磨かれた硝子だ。
 そう見えるのは、肌の白さのせいかもしれない。父も、そして勇作も薩摩出身らしい色濃い肌をしているが、彼の肌は象牙のような暗い白皙だった。真っ黒な瞳に対比して均一に塗られたような皮膚は、触れれば冷たそうな質感をして鈍く艶めいている。
 確かに父の血を分けながらも、明らかに父とは異なる肉を持った体。彼に有って父に無い部分が、彼の母君の血なのだろうか。その浮いた差異の全てが、逆に彼自身をまるで、父と揃いで作られた人形のように彩っていた。眼に浮かぶのだ、このひとと父が並び立つ光景が。それは完成された絵のような完全さだった。変な話だが、ふさわしい、と感じる。彼の佇まいは父の傍が似合う。ともすれば勇作よりも。
 それはもしかしたら単純な息子としての似つかわしさではないのかもしれない。彼の母君は既に鬼籍に入られていると聞く。遺され生きる彼は、そうさせた彼の母親の血を内包して独りだ。分けられた血を彼の存在で初めて目の当たりにする勇作にとって、その血統の全てが彼一人で完結していた。まだ見ぬ、そして永遠に失われた女性、父がかつて愛したであろうその人を、勇作は彼の姿を通してでしか窺い知れない。そうして透かしのように、彼の上に残滓のような異性の影が重なる。息子として寄り添う筈の彼の姿の上に。

 彼の母は美しい人だったのだろう。

「初めまして。お会い出来る日を心待ちにしておりました。私は花沢勇作と申します。貴方の、弟です」
 敬礼する相手に対し、少し強引に握手を交わした。握った白い手は、やはり少し己のものよりもひんやりとしていた。初めて触れたこの温度を、きっと己は、一生忘れないだろうと思った。