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隠していた身分を明かしたことで心の距離も縮まったのだろうか。先生は前よりオレへのボディタッチが多くなったなと思う。
肩だけでなく背中とか、髪とか、耳とか(これはびっくりするのでちょっとやめてほしい)、ふと近づいた時に何気なく触れてくるようになった。箸を箸置きに置くような自然さで。そこにちょうどよくあるから、手を伸ばす。そんな感じだ。
オレとしても元々尊敬はしていたけど、伏せられていた事実を知って、これまでイマイチ分からなかった先生に関する色んな疑問が氷解して、しみじみ立派な人だと思うようになった。この人にがんばってついていこうと思っている。だから、触られると、何だか嬉しくなってしまうのだ。
それって――ちょっとアブナイな、と思っている。
実は耳も、ゆっくり触られるぶんにはちょっと好きだった。
先週ぐらいからは大きな手で顎を下から掬い上げるように頬をぷにぷにしてくる。それも、全然嫌じゃない。
オレはどこまで許してしまうんだろう。そして先生は、どこまで触るつもりなんだろう?
先生がすごい人なのは分かったけど、先生がどういう人かはまだ分かりきっていない。
こんなに他人との距離が近いタイプなところもオレには意外だった。実際よくわからない人かもしれない。ただ、いい人だと――それはずっと思っているけど。
どういうつもりでオレを触っているんだろうか。
ちなみにオレはどういうつもりで触られているのかというと、何も考えていない。
強いて言えば触られている間は、どうにでもして、って気分になっている。
やっぱり、ちょっとアブナイ。
そんな名状しがたいコミュニケーションが一定のラインを越えたのは、何の前触れもないある日の晩だった。
弾み……としか形容できないかもしれない。その時の先生の行動は。
就寝前の余暇、頬をぷにぷにしていた少しかさつく指の感触が、ふと止まって、幾度か表面をなぞったかと思うと、別の感触が来た。
唇に、ふに、と。空気ではなく、確かに形のある、それでも水の入った薄い袋のように柔らかいものが。
そこにくっついてくる温み。
今までで一番近くにあるその体温。先生の匂い。
その怒涛の情報量に、しびびび、と全身を電気のようなものが走り抜けた。
数秒はそのままだった気がする。
キスの間、相手の頭もフリーズしているのが何故か手に取るようにわかった。
ゆっくりと顔が離れる。
とりあえず、オレはびっくりしていた。変な汗も出てきた。そして目の前の先生も似たり寄ったりの状態に見えた。
まだ何も言葉を発さないが、やってしまったという空気を全身から発している。
オレはとりあえず、先生が口火を切るのはイヤだと思った。何故なら真っ先に言うとしたら謝罪しかなく、そしてこの流れですぐ謝罪する先生は何だかかっこわるいので見たくない気がしたからだ。
でもとりあえず常識的に謝るべき流れであることも確かなので、オレは探り探り常識を問うてみることにした。
「……さすがに……口と口だと……意味合いが違ってくるように……思うんスけど」
「……………………………………すまん」
ものすごい深い地の底から絞り出すような済まん、だった。いっそ気の毒になってしまう。先生はこんなに真面目な人なのに……なぜこんなことに?
そのまま先生は岩のように黙ってしまった。すごい迫力だ。それを眺めながらオレは違うことを考え始めた。
――今のでも、オレは許せてしまうのだろうか? 道徳的な良いか悪いかではなく、感覚的な好いか悪いかで。
いきなりだったからよく分からなかった。オレはせっかくだから、確かめてみたくなった。
「先生。もういっかい、してみてもいいスか?」
真面目な検証のため真面目なトーンで言うと、先生はまたフリーズ、というよりは、普通にポカンとしていた。
言葉が出てこないようだが是の雰囲気を感じ取ったので、そっと顔を近づけて、ドキドキしながらもう一度キスしてみる。
そうすると先生も何だか痺れたような様子をしていた。
オレは感触とか、感覚とか、改めて確かめる。そして納得して、ゆっくり顔を離した。
――イヤじゃないなあ。全然。これでも。
考え込みつつ、オレは茫然としている先生を安心させるように言った。
「これでおあいこってことで」
「……」
「じゃ、おやすみなさい」
「……おい」
何か言いたげだが混乱した様子の先生に、大丈夫の意味を込めてひとつ頷くと自室に引っ込んだ。
多分、うっかりやりすぎちゃったんだと思う。なんかオレと同じで、全然イヤじゃなくて、いけてしまうので、ついやってしまったんだろう。手で頬に触れる延長で。
普通に考えたらダメなんだけど。普通わかるはずのことが不意に分からなくなっちゃうことってあるもんな。疲れてたのかもしれない。
次の日、通常通りおはようございまーすと挨拶して一日が始まり、その日の外来は千客万来で、要精密検査の人も見つかって。忙しい一日を終えた。
その次の日は、遠い地区への往診で、帰ってきたらヘトヘトで。手を洗いに行くと先生に出くわした。洗面台までの狭いスペースですれ違う時、先生がぼそりと「……ついている」と言ってオレの髪に触った。指先に何かの花びらが摘ままれていた。
その時オレはふと、先生に触られるのが一昨日の夜以来であることに気が付いた。何だか久しぶりの気がした。そう考えると物足りない気がして、ついでに先生の胸元にぐりぐりと頭を押し付けておいた。
満足して洗面台の前まで行って手を洗い、振り返ると先生がまだその場で、もの言いたげな、何とも言えない顔をしてオレを見ていた。
オレは首を傾げて、でも漂ってくる夕飯の薫りの方に気をとられていたので、とりあえずニコッとしてそのまま先生の横を通り過ぎた。
更に次の日は、先生は二日分の遅れを取り戻すかのようにオレをペタペタと触った。というより、何か確かめているような感じもした。
どういうつもりなのかはやっぱりよく分からないけど、オレはやっぱり触られると、どうにでもしてって気分になる。先生の手はオレの頭をそのまま鷲掴み出来そうなほど大きくて、いつも熱くて、なんか、すごくいい。耳でもうなじでも許してしまう。やっぱり――ちょっとアブナイ。
再び事件が起きそうになったのはその日の晩だった。
風呂上がりのさっぱりした髪を梳くように撫でる手に微睡んでいたら、気付くと唇と唇がまた今にも触れそうになっていたので、オレは「ちょちょちょ」と間に手を入れてストップした。
「ダメでしょ先生!」
「……」
「せっかくあれでおあいこにしたのに」
オレの手に塞がれるまま黙っていた先生は、それを聞いて手を外し堰を切ったように喋り出した。
「おあいこ……おあいこって何だ? 一に一を足しても二にしかならんだろ」
何だか憤慨気味だ。オレの言った理屈にずっと納得いっていなかったのだろうか。
「あれが無ければ俺だけの罪として一生背負っていくつもりだったのに、お前の行動でどう考えればいいのかさっぱり分からなくなった」
「そんなこと言われても……」
そういう大げさな事にしたくないからああ言ったのに。
「イヤだったから拒んでるんじゃないのか」
真面目な口調で(先生はいつも真面目だけど)問われたので、オレも真面目に答える。
「イヤでは……なかったっスよ。全然。けどダメではあると思うっスよ」
「……理由は」
「だって……口と口って他の場所と違って、責任が発生する感じあるじゃないスか。特に日本では。特別な相手以外としたら、その相手に怒られるような場所でしょ。軽い気持ちでおいそれとしちゃダメっスよ」
「……それは……」
何か言葉を探して躊躇うような先生に、オレは明快な代替案を述べた。
「だから、頬っぺたならいいスよ」
「は?」
「オレもそれだったらドイツにいた頃、友達んちの家族とかとよくしてましたし」
自分の家族とはしなかったけど。両親は日本生まれ日本育ちだから、あっちのキスハグ文化には最後まで馴染めなかったらしい。でもオレはそんなに嫌いじゃなかった。
若干ピンときていなそうな先生に、実演するのが早いと顔を寄せて、シュッとした頬にチュッとキスする。
「…………………」
「あ、でもそういう文化圏でも、そこまで親しくない相手との挨拶なら唇を直接つけないのがマナーっスよ。自分から見て左から右に一回ずつ、頬をくっつけて音だけチュッと鳴らして終わりです」
今まで先生は国内での活躍が主だったようだけど、ドクターKだし、朝倉のおじさんの所と伝手もあるらしいし、今後の人生いつか海外に行く機会だってあるかもしれない。もしかしたら訪れるかもしれないその機会に先生が恥をかいてしまったら事なので、実際やってみせる。左右一回ずつ頬をくっつけてキス音。地域によってはもう一度左でする所もあるらしいけど、オレは経験がない。
先生は苦悩したような顔で押し黙っている。
「ほら、先生も」
オレは自分の頬をトントンと指差して乞うた。先生は緩慢に顔を寄せてくると、オレの頬に口をつけた。乾いた淡い感触がする。
「へへ」
久しぶりなのでちょっと照れくさい。でもやっぱり、ちょっと嬉しい。
「じゃあオレそろそろ寝ますね。おやすみなさい」
「…………………おやすみ」
何やら頭を抱えながら、低い声で先生が返事をくれた。今のやりとりの中で、また何か納得いかない部分があったのかもしれない。だとしても、どうしても納得いかなければ後日また言ってくるだろう。急ぐ話であるわけもないのだから別にそれでいいと思う。結局全部、先生とオレだけの話でしかないのだし。
2
基本的に村の人たちは健康意識が高いけれど、勿論全員ではない。それなりに世帯数も多いし、人の入れ替わりもあるし、何となく地域差もあるように思う。
はやる気持ちを抑えながら診察室に駆け込むと、丁度よく先生が視界の先にいた。
「先生先生! 田崎さんの肝機能の数値また良くなってました!」
嬉しくて、検査結果の紙を掲げ持ちながら突撃するように先生に見せる。先生はざっと数値を眺めると、フッと笑ってオレの肩に手を置いた。
「よかったな」
「ハイ!」
本当にいいことなので、顔が自然とニッコニコしてしまう。
「高品先生が主治医なんですか? その田崎さんって人」
学校帰りで診療所に居た海ちゃんが、興味を惹かれたように尋ねてきた。
オレはその質問にう~んと首をひねる。
「主治医……って言うのかな。とりあえず往診だけオレがしてるんだけど」
「言っていいだろう」
先生が太鼓判をくれた。
「どこか悪い方なんですか? やっぱり肝臓?」
「うん、一人暮らしのお酒好きな人でね。まだ肝硬変にはなってないんだけど、ずっと危ない数値で……でも最近少しずつ生活改善して、良くなってきてるんだ」
「見てもいいですか?」
「どーぞ」
紙を渡すと、海ちゃんは数値を見て顔を曇らせた。
「……まだ基準値よりだいぶ高いんですね。食事や生活習慣に気をつけても、このぐらいしか下がらないんですか?」
「うーん。完全にお酒を断つとか、そういうガチガチの制限はしてないから、どうしてもゆっくりにはなるね」
「以前はこの三倍あった」
「三倍!?」
先生の補足に海ちゃんの声がひっくり返る。
「すぐ生活改善しろ、死ぬぞと脅してもヘラヘラするばかりで聞き入れん男でな。長い間改善が見られなかったんだが、龍太郎が往診に行くようになってからは多少話を聞くようになった。向こうからもご指名を受けているしな」
「へえ……」
「先生の指導は厳しいから心が折れちゃうんだってさ。顔コワイしね。いてっ」
余計な一言で軽く頭を小突かれる。
頭を摩りつつ、海ちゃんに検査用紙を返してもらいながら田崎さんをフォローした。
「だから、確かにまだ基準値には届かないけど、ちゃんと改善してくれてるってことが偉いことなんだよ」
海ちゃんはちょっと考え込んだ後、よく通る声で言った。
「次の高品先生の往診って、何曜日ですか?」
「え?」
「田崎さんにこの検査結果を伝えに行くんですよね?」
「うん……田崎さんちは土曜に行く予定だけど」
「やった! じゃあ私もついて行っていいですか? 高品先生の往診、見学させてください!」
「えぇ……?」
戸惑いながら先生を振り仰ぐと、先生は少し考えてから、オレの背中を叩いてGOサインを出した。
「後輩の見学希望だ。連れて行ってやれ。何かあったらお前がフォローしろ」
「ふぇぇ……?」
「よろしくお願いしまーす!」
その日の夜、机に広げていた資料を片付けながら日中のやりとりをふと思い出したオレは、先生に不安を吐露した。
「田崎さんの所に海ちゃん連れてって大丈夫っスかねぇ。海ちゃんわりと先生タイプっぽいからなー。比べ物にならないぐらい愛想がいいだけで」
「俺のタイプってなんだ」
「スパルタなタイプですよ。自他共にベストを尽くさんっていう」
「……俺はともかく……海はスパルタか?」
「絶対そうっスよ。言い方はやさしいけど、言ってることは鬼なタイプっスよ」
「いいだろ、別に」
「いいんスけどね、別に」
「だから何かあったらお前がフォローをしろと言った。お前が大丈夫にしろ」
「ほら、スパルタだ」
「フン……」
オレは片付けた資料をすっきりまとめると、さてと先生に向き直った。
ここのところの就寝前の定例をするためだ。
先生は微妙な顔をしてオレを見る。
「……別に義務のようにする必要はないが」
「えー」
自分から始めたことのくせにそんなことを言う先生に、オレはにじり寄る。
「楽しいからしたいっス」
「……お前は本当に……」
疲れたように何かゴニョゴニョ言っている先生の首に構わず抱き着いて、頬にちゅーっとキスした。
ドイツで友達の家に招いてもらった頃を思い出して何だかやたらと楽しい。
ニコニコと腕を解くオレに、先生は照れているのかムスッとした顔で眺めやった後、口だか頬だか分からないギリギリの所にキスしてきた。
「わっ、危なっ。今の三分の一ぐらい口でしたよっ」
最近ちょいちょい先生はこうやって口角ギリギリを攻めてくる。チキンレースみたいなことだろうか。
「大部分は頬だった」
「あははは」
謎の弁解に面白くなってオレは笑ってしまった。
約束の土曜日、海ちゃんは朝から溌剌とした挨拶と共に診療所に顔を出し、まだ準備出来ていないオレを快活に急かした。元気に歩き出す海ちゃんの後ろにオレが慌ててついていく形で往診に出発した。
往診先は田崎さんの所だけではなく、その地域で用件のある家すべてだ。順番に訪問していくが、海ちゃんは毎回どの家に行っても「あらあらまあまあ」と玉のように大歓迎されていた。
何だかこっちまで若返るようだとツヤツヤしている村の人の顔を見ると、木下さんちの赤ちゃんが生まれた時といい、やはり年若い者の存在というのはそれだけでお年寄りに活力を与えるものなのかもしれない。
感心しつつ、オレは道中予告した。
「次が田崎さんの家だね」
「ハイ!」
海ちゃんから張り切った返事が返ってくる。
ここまでの家では、海ちゃんは基本的に各家の人からの「いくつなの?」「背高いねえ」「まだ学生さんなのに親元離れてえらいねえ」といった質問にニコニコと答えることに徹していて、問診の間は何も口を挟まず大人しくしていた。これなら田崎さんの所でも大丈夫かな、とちょっと安心する。取り越し苦労というやつだったかもしれない。
「高品先生はすごく、村の人たちに馴染んでるんですね」
海ちゃんが不意にそんなことを言った。
「そうかい?」
「はい。身内の人みたい」
「海ちゃんもすぐそうなるよ」
既に皆の反応がオレの来た時とはえらい違いだし……。
「だといいんですけど。……島では子供の時から知ってる人ばかりだったから、他所の環境に途中から入るのって初めてなので」
「わかる〜。引っ越しとかさ、転校とかさ、既に出来上がってる環境にまるで違う所から入ってくのって気ィ遣うよな」
「……高品先生が今まで経験した中で、一番違いの大きい環境に移ったのっていつ頃ですか?」
「小学生の頃だなァ。オレこう見えてドイツ生まれでね、日本には途中から暮らし始めたから」
「えっ! そうなんですか!? それは確かに……すごい変化ですね……へぇ……」
海ちゃんは何やら圧倒されたように黙ってしまった。親の都合で自動的にそうなっただけの身分としては何だか居た堪れない。
「でも国とか大きな括りじゃなくたって、それこそクラス替えとかさ、環境なんて理不尽にチマチマ変わるモンだしね。そこで馴染めるか馴染めないかは運みたいなトコもあるし」
「運、ですか」
「うん。あっ今のはダジャレじゃないんだけど」
「ふふっ、わかってますよ」
「そ、そう? で、話の続きだけどさ。どうしても仲良くなれない人がいるみたいに、どうしても馴染めない環境っていうのもあるからね、たぶん。だから気楽に考えた方がいいよ」
「でも……自分が変わっていけば、いつか仲良くなれるし、馴染めるようになるんじゃないですか?」
「考えようによっちゃ、そうかもしれないけど……でもほどほどにしとかないとさ、疲れちゃうんじゃない?」
「……疲れる?」
「まるっきり合わない人とか環境に合わせようと思ったら、まるっきり変わらないといけないって事だろ。それって大変だし、素で合わなかったとこにそこまでして馴染まなきゃいけないのかな? それよりは、合わない部分はもう諦めて、その中でも受け入れられる部分とか、好きになれるちっちゃ~い部分を探すぐらいの方が疲れないと思うな」
「……でも……どうしても一緒にいなきゃいけなかったり、どうしてもその環境に居ないといけない場合だってありますよね?」
「まあね。でもほら、少しでも許せる部分があれば仲良くなくても一緒にはいれるし、ちょっとでも好きになれる部分があれば浮きっぱなしの環境でも身を置くことは出来るから」
「…………」
明らかに納得いってない様子で海ちゃんが考え込んでしまった。そういえば海ちゃんのことを皆ベストを尽くそうスパルタタイプだと分析したのは他ならぬこのオレなんだった。
うっかり披歴した軟弱な考え方によってオレは仲良くなれない側に振り分けられる可能性がある。オレとしては仲良くしたいところだけど、無理そうなら少しでも許せる部分を見つけてほしいところだ。
「着いた。ここが田崎さんちです」
「あっハイ!」
思わず敬語で紹介しつつ、オレは「ごめんくださーい」と田崎さんの家の戸を叩いた。
海ちゃんの紹介と、往診の見学で来ているという事情を説明すると田崎さんは鷹揚に自己紹介してくれた。海ちゃんはハキハキと挨拶しつつも、チラチラと周囲に走る視線から室内の迫力に圧倒されている内心が隠しきれていない。
無理もない。秋葉さんの家が独居男性の家としてはかなり整頓されている方であるという比較を抜きにしても、食い終わったカップラーメンのカラとかがコレクションのようにその辺に積みあがっていたりする田崎さんの家は中々迫力のあるビジュアルだ。以前はもっと酒臭さがプラスされていて、オレも初訪問の時あからさまに「酒くさっ」という顔をしてしまった。
オレは挨拶もそこそこに、何よりもまず数値を見た時の感動をひとしきり田崎さんに訴えた。
「めちゃくちゃ下がりましたよ! すごい! 一年前に比べると歴然とした差ですよ! えらすぎる! オレ数値見た時もう嬉しくて!」
「へっへっへ」
もう去年までは「えっこれでまだ肝硬変じゃないの?」という数値だったのだ。それが「だいぶ危ないよ」という数値までになった。これはとても大きな変化だ。
田崎さんは満更でもなさそうな様子で烏龍茶をペットボトルで直飲みしている。烏龍茶もそこそこカフェインがあるので本当は麦茶とかにしてもらいたい所だが、麦茶は甘いのでキライらしい。ブラックコーヒーをガブガブ飲んでいた以前よりはだいぶマシなので良しとしたい。ちなみにオレと海ちゃんにも一本ずつ未開封のをくれた。やさしい。
「高品先生の言うこと律義に聞いてっからね。最近はラーメンのスープも飲み干すのやめたし」
「前は飲み干してたんですか?」
海ちゃんが早速反応している。
「ウマいんだもん。なあ先生」
「そうなんですよね。罪深いことに」
「同意してどうするんですか!」
「でも先生に『オレも我慢しますから我慢してください!』って泣きつかれてね。根負けしてやめたの」
「オレもちゃんと守ってますよ、約束」
「ハハハ」
ニコニコし合うオレたちを海ちゃんが理解できないものを見る目で見ている。
「最近胃の調子はいかがですか?」
「もらった薬飲んでたらかなりマシになってきたよ。また出してくれっかい」
「ハイ。ちゃんと水で飲んでくださいね」
「へへへ、わかってるよ。確かに酒で飲むより効く気がするよな。気のせいかもしんねえけど」
「絶対気のせいじゃないです」
やんわりと断言しつつオレはカルテを書き進めていった。
横から海ちゃんが様子を伺うように質問を投げかける。
「……お酒は、今どのくらい飲まれてるんですか?」
やはり発端となった田崎さんの所では、積極的参加の意思があるようだ。
田崎さんはうっすら白くなった顎の無精ひげをざりざり擦りながら、部屋の隅に積まれた酒類を指差す。
「ビールだと三、四本。焼酎は割るから分かんねえけど、まあ似たようなモンじゃねえかな」
「えっと……それは純アルコール量で言うと……」
「60グラム強ってとこかな」
オレが答えると海ちゃんは顔をしかめた。
「多くないですか? 男性だと40グラム以上が生活習慣病のリスクを高める目安でしたよね?」
「まあ体格とかもあるけどね」
「そうそう。これも先生の言う事聞いてかなり頑張って減らしてんだぜ。前は最低でも三倍は飲んでたから」
「三倍!? ……一日で?」
「そりゃそうよ」
「き、休肝日は設けてますか?」
「それは無いな。高品先生からもお願いされたけどそれは断ってる」
「断られてる」
「こ、断るって……!」
海ちゃんは何か言いたいが言葉が出てこないようだ。
オレは若干抗議のニュアンスを含めつつ田崎さんに言った。
「量に関しても、オレはあの缶二、三本にしてってお願いしたんですけどぉ」
「はっはっは。申し訳ねえけどその量じゃちょっと気持ちよく酔っぱらうには足りねえんだよな」
「お酒強いっスもんね、田崎さん」
「そうなのよ。でも、減らし始めた頃より最近は酔うの早くなった気ィすんだよな。酒弱くなってきてるかもなって」
「いいじゃないですか、酒代の節約にもなるし」
「まあねぇ」
「じゃあもうちょっとしたら量も二、三本にしてもらえそうですね」
「保証は出来ないけどねぇ」
はっはっは、と二人で笑う横から海ちゃんがもどかしげに口を挟んだ。
「田崎さんの数値はすぐにでも一切お酒飲むの禁止にした方がいい数値なんですけど……!」
それはそうだ。正論だ。
田崎さんは(シロートが来ちゃったよ……)という顔でオレをチラリと見た。海ちゃんがそれを見てちょっと苛立った気配を感じる。オレはとりあえず苦笑いしている。
「なんでそんなに毎日お酒を飲むんですか?」
海ちゃんが抜本的な問いを投げかけた。
田崎さんは少し面倒そうに、でも優し気に答える。
「酔わないと寝付けないんだよね」
「それはお酒で解決すべき問題じゃありませんよ」
力強い口調で海ちゃんが言う。田崎さんは答えず、静かに微笑んでいる。
「睡眠導入剤の方がお酒よりよほど身体に害がないですよね?」
「前K先生に処方されて飲んだけどね。眠くなりすぎてやめたよ。日中ずっと残って仕事になりゃしない」
「合わなかったんじゃ……他の種類の薬も試しましたか?」
「どれも同じだったさ」
海ちゃんは説明を求めるようにオレを見た。
オレは海ちゃんの言うことも尤もなんだけど、と前置きしつつ補足した。
「田崎さん胃が荒れ気味だから、副作用で胃に来る薬は避けたいのもあるんだよね」
「そうそう」
「あと田崎さんめんどくさがってお酒で眠剤飲んじゃいそうで怖いし」
「ハハハ」
「そんなの絶対ダメですよっ」
海ちゃんの声が裏返った。眠剤とアルコールを同時接種する危険性を把握しているらしい。えらい。
気を取り直すように強い口調で海ちゃんが熱弁する。
「睡眠障害も、脂肪肝も、どちらも改善するには生活習慣の改善が不可欠です」
「そんな一足す一は二、みたいなこと言われてもね」
田崎さんは苦笑した。オレはなんか最近似たようなことを言われた気がするな、とちょっと気が逸れた。
海ちゃんは正論を鼻であしらわれたことにムッとしながらも、めげずに質問を重ねる。
「せめて食事習慣をもう少し改善出来ませんか。野菜とかは食べてますか?」
「高品先生からせめてレタスくらいは食ってくれって言われて、仕方なく食べてるよ。たまに」
「……他には?」
「他って言われてもね。大体茶色い食い物かな」
「茶色い食べ物……?」
把握し切れない顔をしながら、海ちゃんはオレの横にある往診鞄に手を伸ばした。
何かなと思ったら、中から食品の栄養素ごとに分類分けされた表が載っているパンフレットを取り出した。診療所にあったやつだ。ここで説得するためにこっそり入れた所を想像すると、何だか微笑ましい。
「ここに書いてある、大きく分けて六群の中から……」
ハァ、と田崎さんがため息をついた。
「セールスみたいだね」
バッサリとした一言だ。海ちゃんは固まってしまった。
「K先生からも麻上さんからもね、同じことを耳にタコが出来るほどもう聞かされてるから。これも前見せられたし。今更親切に教えてくれなくても大丈夫だよ」
「……で……でも、聞いてくれてないじゃないですか! だから危ない数値のままずっと放置して……!」
ここで言い返せるのはスゴイなと思う。オレは感心しながら静観する。
「頼んでないんだよな、別に」
田崎さんがさらにバッサリと切り捨てた。もうその顔には笑顔もない。
「こっちにも好きに生きる権利ってモンがあるわけだろ? ここが医者を神様みたいに崇める村だってことは生前のオヤジとオフクロを見て重々承知してっけどさ。でもそれって義務じゃあないよな」
「も……勿論そんな、義務とかじゃないですよ。田崎さんのために必要だって言ってるんです!」
「フン。オレに何が必要かをオレより知ってるってわけだね」
田崎さんは吐き捨てるように言った。
「偉いんだな」
海ちゃんは言葉に詰まってしまった。
「田崎さん」
オレは流石に名前を呼んで諫めた。大人げないですよ、という意を込めて。
田崎さんはばつが悪そうに、頬を膨らますオレを見た。
「……なんでこういう真っ当な若い子を、オレのとこになんか連れてきたんだい先生」
「スミマセン。田崎さん優しいから許してくれるかなって……」
じっと目を見つめながら言うと、田崎さんは居心地悪そうな顔をした。
オレはさらに追い打ちをかけた。
「それに海ちゃんはこれからこの村で生活していくわけで、田崎さんの生活状況を知っといてもらえれば、ある日道端で倒れてる田崎さんに出くわしても適切な処置をしてくれるじゃないですか」
「ぐっ……」
田崎さんが言葉に詰まった。海ちゃんはえぇ…と引き気味の顔でオレを見ている。
「厳しいなあ高品先生は!」
「そうですよ。海ちゃんとか先生の対応の方が優しいんですから、ホントは」
「そんな、倒れるとかさ……まあ倒れるって言われてるけどさ……」
「言ってるのに……」
「……でもほら。今回数値がよくなったんだもんな」
「そうですね。まだ倒れる可能性のある範囲には居ますけど」
「厳しいなあ高品先生は……」
「せっかくだから海ちゃんが持ってきてくれたこのパンフレット、無下にしないで活用してくださいよ。この中から一個選んで食べていいとか楽しそうじゃないですか。オレみかんとか好きですよ」
「みかんか……オレはりんごの方が好きかな……」
「海ちゃんは?」
「わ、私ですか? 私は……私もりんごの方が……」
「二対一か。負けちゃった。帰ったら先生にもどっち派か聞こうかな」
「……あの人モノとか食うの?」
「そりゃ食べますよ。今朝一緒にとろろごはん食べました」
「……おいしそうだね……」
その後は問診の続きをして、薬を処方して、それではお暇しますとなった。
田崎さんは海ちゃんが飲まなかった未開封の烏龍茶のペットボトルを渡しながら謝った。
「悪かったね。そっちの言ってることの方が正論だって分かってるのに、大人げなく口答えばっかりしちゃって……」
「いえ……」
海ちゃんは躊躇うように視線を彷徨わせ、それから意を決したように口を開いた。
「あの! なんで……なんで高品先生の言うことなら聞いてくれるんですか?」
直球だ。
この子ってやっぱり十五歳なんだな……と思いつつオレは田崎さんを見た。
田崎さんは照れ臭そうにオレの視線を気にした。
「えぇ~? なんでって言われても……」
「制限が甘いからですか?」
「いやあ……そういうんじゃないかなあ……」
田崎さんはしばらく考えて言った。
「選択肢をくれるからかな……」
「選択肢……?」
「聞いても聞かなくてもかまわない、っていう」
「で、でも……」
躊躇う海ちゃんに、オレは色んなことを置いといて言った。
「田崎さんの生活は田崎さんのものだしね」
「でも……危ない数値なのに」
「うん。なんで、心配だからお願いをちょくちょくしてる。それはオレが治ってほしいからってだけだし、田崎さんはそれを聞いてくれてるだけなんだよ。別に無視したって、違法なわけじゃないし」
田崎さんはオレに、少し小さな声でぽつりと言った。
「いつもありがとね」
オレは頭をかきつつお辞儀した。
「いえいえ。こちらこそ。……お大事に」
そしてすべての往診が完了し、診療所への帰路についた。
海ちゃんは田崎さんの家を出て以来、ずっと何か考え込んで黙っていた。
話しかけていいのかなあ、と様子を見ていると、唐突に振り返って海ちゃんは宣言した。
「私……っ考えを整理したいんで、走って帰ります!」
「え!? あ、ハイ!?」
「それじゃあまたあとで!! 失礼します!!」
そしてそのまま長い脚で本当に猛然と村道を駆け出してしまった。見晴らしのいい道、凄まじい勢いで背中が小さくなっていく。
「スパルタだ……」
そのうちオレも健康のために走れって言われたらどうしよう。
3
夕暮れ、帰ってきた診療所で合流した後も、海ちゃんは相変わらず難しい顔で生活習慣病の資料等を参照していた。
麻上さんに「ちょっと何かあったの? 田崎さんの所?」と聞かれても、オレとしてはどの辺が海ちゃんの琴線に触れたのか分からないので何とも言えない。
探るような雰囲気で始まった夕食の席で、オレがいつものごとくひとしきり今晩のメニューとイシさんの料理の腕を絶賛していると、海ちゃんが重い口を開いた。
「……高品先生。いくつか質問に答えていただいてもいいですか?」
「ハイッ? な、なんでしょう」
改まった切り出し方をされ、思わず声が裏返る。
「田崎さん本人が生活への積極的な介入を望んでないってことは分かりました。私たちにそれを強制する権利がないってことも。でも、それでもやっぱり義務はあるんじゃないでしょうか? 私たちには」
「積極的に介入すべき義務……ってことかな?」
「はい。医者として、このままだと病んでしまうかもしれないと分かっている状態を放置するのは、見捨てていることと一緒なんじゃないでしょうか?」
オレは手厳しい意見に苦笑して頬をかいた。
「一応こまめに様子を見に行って、ギリギリせめてこれだけはってラインは守ってもらってるつもりだけど……。ちなみに、本当のリミットよりちょっと低めを限界っぽく言うのがコツでね」
「……すみません、放置というのは言い過ぎました。訂正させてください。でも、今の高品先生が許しているペースでは根本的改善には遠いと思います」
「まあ、基準値からは出てるからね。今も」
「田崎さんには偉そうにって言われてしまいましたが、自分の状態を把握できていないのも病であるわけじゃないですか。肝臓は特に沈黙の臓器と呼ばれていますし。だからこそ私たちがいるんじゃないですか。そうであれば、たとえ憎まれてでも、無理矢理にでも節制してもらって、まずは健康な状態に戻ってもらうことが正しい在り方なんじゃないでしょうか?」
「うーん。先生が無理矢理入院させたこともあるみたいだけどね。肝炎とかだったわけじゃないんだけど。先生もほら、スパルタだから」
「えっ……? そうなんですか? ……スパルタ?」
海ちゃんが戸惑ってオレと先生の顔を見比べる。先生は腕を組んで静観している。
オレは話を続けた。
「でも一時的に数値が改善しても、結局戻った後の本人の生活が改善されなければ元に戻っちゃうのが悩ましいところでさ。永遠に入院しててもらうわけにもいかないし。田崎さんにもお仕事があるからね」
「で……ですから! その生活の改善にもっと本気で取り組むべきです!」
「田崎さんが?」
「先生がです! いや最終的には田崎さんですけど!」
「うーん。毎日野菜たっぷりのお弁当作って持っていくとか?」
「そっ……そこまで言ってないですが……何なら私がやってもいいですそれは!」
「ちょっとどうかと思う。他にもいっぱい患者さんはいるのに田崎さんだけにそんな特別なコストをかけてられないでしょ。何よりそれを受け容れるほど田崎さんは遠慮なしな人じゃないしね」
「先生が言い出したんじゃないですか!」
「ごめんごめん。例え話だった。でも実際、田崎さんにだって日々の選択の自由があるからさ。何か罪を犯したわけじゃないんだし」
「それです! それをやめた方がいいんじゃないかって言ってるんです。不健康になる自由を許すことが、本人のためになるとは思えません! 先生は医者の言う事を無視したところで違法じゃないっておっしゃいましたけど……法律で決められたことだけが罪ってわけでもないじゃないですか。ならなくてもいいはずの病気になるような自堕落な生活は、罪と言ってもいいんじゃないでしょうか?」
すごいこと言うな、と思いつつオレはシンプルに言い直してみる。
「オレたちの人を健康にする義務と、田崎さんの自由に生きる権利とで戦うべき、ってことかな」
「……そうです!」
海ちゃんはキッとした顔で言い切った。
これは絶対、オレもブクブク太ったらいつか村中を走り回らされる事になるだろうな。
密かな覚悟を固めつつ、オレは冷めたらおいしくないメニューからさりげなく食べ進めつつ言った。
「うーん……自由、の話だけどね。たぶん田崎さんが本当に守りたいのは、お酒を飲めるとか、好きなものが食べられるとか、そういう具体的な行為の質じゃないんだと思うよ」
「……じゃあ……何なんですか?」
「何ていうかね、生活っていうのはポンとそこにいきなりあるものじゃなくて、色んな過去とか、環境とか、人とか、色んな要因と本人の性質が合わさってそうなってるものなんだよ。理由もなくお酒を飲まずにいられないわけじゃないし、理由もなく自分の体を大事にできないわけじゃない。そう考えると、さっき選択の自由って言ったけど、むしろそういう選択しか出来ない不自由っていうものが田崎さんにはあるんだよね。不健康でいたくて不健康でいるわけじゃないんだよ」
「……つまり……メンタル的な問題だとおっしゃりたいんでしょうか」
「というよりも……何というか、プライドの話なんだと思う」
「……プライド?」
「要するに海ちゃんは、もっと真剣にやらないと肝炎になって、肝硬変になって、肝不全とか肝臓がんとかにもなって、色々つらい症状が起こって、死んじゃうかもしれないんだぞ~って脅して、生活を改めさせたいんでしょ」
「………………はい。要するに、そうです」
「田崎さんもそういう理屈はちゃんと頭で分かってるんだよ。先生がそういう説明しないわけないだろ? トラウマになるぐらい説教されたって。でもね、身体の不健康さっていうのは、言わば副産物なんだよね。なりたくてなったわけじゃない。色んな事が生活であって、必死に生きてきて、その結果意図しない結果がついてきてしまったってだけなんだ。オレたちは医者目線で見るから、つい病気になるような生活っていうレッテルを後から貼ってしまうけど、本人はそこを目指して生きてたわけがないんだよ。だから『なんて生活してるんだ』って怒られても、謂れのない罪で裁かれてるような気持ちになっちゃうんだと思う。それにさっき、オレたちには人を健康にする義務がある……っていうような話をしてたけど。逆に、人を健康にする権利ってものはオレたちにあるのかな?」
「人を……健康にする…………権利……?」
「田崎さんの生活はあくまで田崎さんが主体で、そのリスクもリターンも田崎さん自身が負うものだよ。だったら方向を決める権利もやっぱり田崎さんにあるべきだ。そのはずなのに、あたかもその権利があるように振舞う他者が現れたら脅威に感じてしまう。例え相手がどんな関係性の相手でも、仮に言っていることが正論だったとしても。そういう相手に脅かされた経験が、人生で多ければ多いほど」
「……でもっ……! それでも……医者は別なんじゃないですか? それにこの村は……」
「神サマを求めてるわけじゃない人に、託宣は出来ないよ」
海ちゃんは何か言いかけたような口のままポカンと固まってしまった。
しばらく言葉を探すように視線を彷徨わせて、それから勢いの無くなった口調で尋ねてきた。
「……じゃあ……高品先生はどういう立場で田崎さんにお話ししてるんですか?」
オレも考えを巡らせて視線を彷徨わせた。
「……住んでる村の……病院の……医者、かな。研修中の」
「そのままじゃないですか」
「……そのままだね」
海ちゃんは黙ってしまった。自分でも言葉が足りないなと思ったのでオレは補足する。
「さっきプライドって言ったのはね、つまり……主体性はあくまで自分にあるっていう自負を守りたいんだと思うんだよ。あくまで田崎さんの生活の主人公は田崎さんなんだ。田崎さんはそういう生き方を選んでる人なんだよ。だからオレは、田崎さんに選んで欲しいなって思いながら、健康的な生活に近づく選択肢を横からせっせとオススメしてる。田崎さん自身の意思でそうしてもいいって思えるように。だって、実際に歩くのは田崎さんなんだしね。歩けるペースで歩いてるだけなんだ。いきなり走らせようとしても、疲れちゃうんだよ。幸い、歩きでもまだ間に合う段階ではあるしね。それを甘いと言うなら確かにそうかもしれないけど……オレは田崎さんのそういう頑固さも尊重してあげたいかな」
「…………」
「でも今回は海ちゃんが来てくれたから、おかげで次行く時はもっと生活習慣が改善されてるんじゃないかなって期待してる」
「え……」
海ちゃんは考え中だったが、唐突に言及されて困惑した声を上げた。
「でも、私は怒らせちゃったし……」
「あれは田崎さんが大人気なかっただけだよ」
オレはバッサリと評した。海ちゃんは確かに一人の医者としての立場から話していたけど、それでも子供相手にあの対応はない。田崎さんにだって大人の責任というものがあるのだから。
「で、田崎さんも大人気なかったこと反省してたから。罪滅ぼしに、もう少しオレたちの希望に寄せてくれると思うんだよね。根は真面目な人だし。パンフレット持ってきてくれてありがとう」
オレは次行った時の田崎さんの顔を思い浮かべて、小さく笑った。
海ちゃんは微妙に納得いかなそうな、困惑したような、複雑な表情でしばらく黙っていたけど、やがて顔を上げて言った。
「じゃあ……私にも、出来たことはあったんでしょうか?」
「あったよ。すごいあった。他の往診先でも大好評だったじゃん」
「そ、それじゃあ……次に田崎さんの所に行く時も一緒に行かせてください! 私、もっと田崎さんの話を聞きたいです」
「え? うーん。だめ」
「えっ」
断ると、海ちゃんは固まってしまった。
静かに食事していた麻上さんも何故か同じ顔をしている。そして聞いてきた。
「な……なんで?」
「え?」
「なんでですか?」
海ちゃんも呆然とした顔で聞いてくる。
オレは二人の目を交互に見てから海ちゃんに言った。
「海ちゃんは田崎さんのために行きたがってるわけじゃないから」
「き、厳しっ……」
麻上さんが引いた顔で呟いた。そうなんだろうか。オレもある種のスパルタだったのか?
海ちゃんは納得できなそうに、勢い込んで言い返してきた。
「で、でもっ。高品先生だって、自分が治ってほしいだけって田崎さんに言ってたじゃないですかっ!」
「言われてみれば言ったなァ……」
オレって客観的に見ると言うこと適当だな。反省しつつ、開き直ることにした。
「でもオレは主治医だもん。先生のお墨付きもらったもーん」
海ちゃんが信じられないという顔をする。それから先生に縋るような目を向けた。
視線を受けた先生は若干呆れたような目でオレを見ていた気がするが、沈黙の後、端的に言った。
「主治医がそう判断したなら、従うべきだ」
「そんな! ………………わかりました」
ものすごい葛藤を滲ませて海ちゃんが引き下がる。
しかし麻上さんは第三者として、苦笑しながらやんわりと食い下がってきた。
「海ちゃんはここのお弟子さんなんだし……勉強させてもらうぐらい良いんじゃない? 高品先生が横でちゃんと見てくれてればいいじゃない」
「田崎さんああ見えてデリケートな人なんで。せっかく減った酒量がまた増えたらヤだから、しばらくはダメです。勿論、ある程度先ならいいっスけど」
「そんなにデリケートな人かしら……」
顔をしかめながら呟く麻上さんに、オレは口を尖らせた。
「麻上さんは田崎さんのことあんま好きじゃないから」
「か、関係ないでしょ! 人の好き嫌いは。じゃあ高品先生は好きだって言うの」
「オレ田崎さん大好きっス」
「なんで!?」
「どこが!?」
ひどい言われようだ。確かに女性ウケはよくないタイプだと思うけど。
「えー。なんでもどこも、普通に好きっスけど。どこだろう……シャイなところかな……」
理解できない目をされた。
オレは田崎さんの魅力についてしばらく考えた後、気を取り直して言った。
「つーかまあ、村の人はみんな好きっスけどねぇ」
ここに住む色んな人の顔を思い浮かべると、それだけで笑顔になってしまう。
みんなひとつひとつの生活があって、人柄があって、来歴があって。それぞれ、なんだか、すごくいい。
二人はポカンとした後、すごい勢いでにらんできた。
「私だってみんな好きだけど!!」
麻上さんにキレ気味に言われた。こわい。
「高品先生って何なんですか!?」
海ちゃんにもキレられた。こわい。
オレは二人のガチギレトーンに困惑しながら、小声でイシさんに相談した。
「イシさん、これはオレがマジで二人を怒らせてるんスか? それとも何かこう、ある種のやつあたりを含んでるんスかね?」
「どっちにしろ男なら黙って受け止めぇ」
「ウス」
さすがイシさんだ。明快な意見をくれる。オレの心の師。
「先生ってりんごとみかんどっちが好きっスか?」
「なんだそれは」
夜、ふと思い出して隣の先生に聞いてみると、先生は手元のカルテに目を落としながら疑問を呈してきた。
田崎さんの家でそういう会話になったことを簡単に説明すると、先生はちょっとの間の後言った。
「……りんご」
「三対一か~」
りんご人気だなあ。みかんおいしいのに。勉強道具を片付けながら首をひねった。
先生はまだ作業が残っていそうだが、オレはキリがいいのでやめることにする。
最近、診察室のテーブルで勉強する時は先生の隣の席に座ることにしていた。向かいに座るより、質問のある時にスッと該当箇所を見せられて合理的だからだ。
借りた資料を戻しに行こうと立ち上がると、先生がオレの手首を不意に掴んで引き留めてきた。
「え」
何だろう。座り直した方がいいんだろうか。
瞬きしていると、先生が言った。
「……お前がここに来た最初の頃。俺はお前のことを、周りが敷いたレールを何の疑問もなく歩いてきた、どうしようもない甘ちゃんだと思っていた。自分がなぜ医者になったのか、どういう医者になってどう患者と関わるのか、まったく考えてはいないだろうと」
突然の告白に、オレは驚いて、それから笑った。
「ハハハ。ひど」
ボロクソさに自分のことながら面白くなってしまう。来たばかりの頃を考えれば仕方がないかもな、とも。オレなりに、そこそこ必死ではあったのだけども。
すると、手首を掴んだ力が少し強まった。ちょっとこわい。先生が本気を出せば握力で折れる気がする、と考えていると、先生が言葉を続けた。
「そうじゃないんだと、お前を見ているうちに分かった。俺の持っていたイメージが一面的だったんだ。成長性のある人間はこういうものだという固定観念があった。……抱えている志が無ければ、お前のような在り方は出来ない」
……これは、褒められているんだろうか?
お礼を言った方がいいのか考えていると、先生がオレを見上げて言った。
「お前は自身の抱いている志を自己肯定のために使っていなかった。だから俺はお前のことが分からなかった。だがお前は、お前なりに考えて、目指す理想を確かに何か内に抱いて、この道に足を踏み入れたんだろう?」
オレはその問いに宙を見上げる。そして、オヤジをバス停まで送っていった時に話したことを思い出した。
墓場まで持っていくのだと思っていた素朴な憧憬。
「……さあ。どうスかね」
答えず、とぼけて流す。
一度取り出したのは予定外だ。二度目はない。
「……つれないな」
先生は視線を落とすと、手首の力を緩めた代わりに、もう片方の手でオレの心臓の上に触れた。
「お前は案外と秘密主義だ」
オレは遠慮のないその手に、二人で人の心臓に辿り着いた時の事を思い出した。神秘のない、何から何まで人為的な操作で人の機能を修復するために身体を開く行為。
それでも先生の掌に今伝わっているこの鼓動は、オレの意思でも、ましてや先生の意思でもなく、ひとりでに脈打つ神秘だ。
人は必ず最低一つ、この神秘を内包している。
「……全部を知る必要はないでしょ。先生はすごい人だけど……別に全知全能じゃなくても。オレは先生に、神サマになってほしいわけじゃないし」
オレは不躾な先生の手を心臓から遠ざけた。すると先生はオレの顔をじっと見上げながら言った。
「己にとって完璧に利益しか与えない……一面的な存在が欲しくなる事はないのか。理想の部分しか持たない、絶対的な存在が」
変な事を聞くんだな、と思う。
オレがそういうノリを嫌いなの、先生は知ってるはずなのに。
オレは先生の髪にちょっと浮いた部分を見つけて、それを後ろに撫で付けながら自説を語った。
「そんな人、本当は存在しないんですよ。……いてほしいと思う気持ちが人間にはあるだけで」
オレにだってそれはある。でも同じぐらい、忌避してもいる。
それは片方にしか利益を齎さない思いだからだ。そこには、二人の人間がいるのに。
「お前はいつも、正しい事しか言わんな」
珍しく先生は夢見るようなことを言った。
オレはその髪の跳ねた部分をついでにちょいちょいと整えてやりながら、やんわりと嗜めた。
「そんなわけないでしょ」
「……フフ」
先生は笑って、オレの胸に顔を埋めた。
「そうだな……」
その日の寝る前にオレが頬にキスをすると、先生はオレの瞼に唇を落としてきた。
そんな所にキスをされるのは生まれて初めてなので、ちょっとドキドキしてしまった。
4
健康というのは突然なれるものじゃない。オレが一夜にして激ヤセすることもないように、田崎さんの肝機能の数値が次の日オールクリアになることもない。
同じように人の生活にも革命というものは無いけれど、しかしキッカケなら起こる。
「あ、田崎さん! こんにちはー」
往診の途中で田崎さんを見つけて挨拶すると、田崎さんはちょっと照れ臭そうに片手を上げて返してくれた。やっぱりシャイな人だ。
「お買い物の帰りですか?」
「あぁ。こないだ言われて、ちょっと反省して……」
そう言ってビニール袋を開いてくれたので覗き込むと、中には見覚えのある食材がたくさん入っていた。どこで見たのか。あのパンフレットにあった六群の絵だ。りんごも二個入っている。
オレは医者と患者の関係でさえなかったら田崎さんを抱きしめている所だった。
「えらい! えらいですよ田崎さん! 最高! 大好き!」
「お、大げさだなあ、先生は」
「嬉しいんスもん!」
自然豊かな村道を最高の気分で田崎さんと並んで歩いていると、背後からすごい速さで近づいてくる軽快な足音が聞こえてきた。
なんだろう? と振り向く前にオレの横にビタッとその音の主は追いついた。
「こんにちは!!」
「うわっ」
海ちゃんが一呼吸で呼吸を整え終わりながらハキハキと挨拶してきた。ギンギンとオレを見るその目には(往診はダメでも挨拶ならいいですよね!!)と書いてある。やっぱり素直な若い子ってかわいいなって思った。
「海ちゃん。学校帰り?」
「ハイ!! 田崎さんもこんにちは!!」
「こんにちは……」
「今ねえ、田崎さんがねえ~~~」
「ちょっと先生やめてよ~~~」
えへへとニマニマしてしまうオレと恥ずかしがる田崎さんとで若干綱引きを挟みつつビニール袋の中身を見せると、海ちゃんはちょっと瞬きした後、オレに負けず劣らずニッコーーーーーと嬉しそうな満面の笑顔になった。かわいい。
「次は運動ですね!!」
「えっ」
もう次の話を? オレと田崎さんは若い子のスピードについていけず困惑する。
「今度三人でウォーキングでもしませんか!?」
「いや……それはちょっと」
田崎さんがすかさず断った。
「オレもそれはちょっと……」
一緒にオレも断ったら二の腕を叩かれた。いたい。
「田崎さんはともかくなんで高品先生まで断るんですか!? 一緒に勧めてくださいよ!!」
「だって……」
田崎さんがオレにこっそりと耳打ちした。
「先生……次の往診もこの子来るの?」
「いえ。次はオレ一人でうかがいます」
「そっか」
あからさまにホッ……とした田崎さんの顔を見て、何となく会話内容を察したらしい海ちゃんは、悔しげな顔をすると「運動もしてください!! 失礼します!!」と言い残してオレたちの前を走り去っていった。
「元気な子だねぇ……すごいねぇ……」
「田崎さん、もう絶対今より数値悪くならないでくださいね。来ますよ、あの子が」
「脅さないでよ~」
本気のトーンで田崎さんが怯えた。
ありがとう海ちゃん、おかげで結果的に田崎さん脅せたよ。
最近先生はオレへのボディタッチがちょっと控えめになったと思う。こないだ田崎さんの家に海ちゃんと往診に行った日あたりからだろうか?
若干寂しいけど、これでいいのかもしれないとも思う。アブナイから。
今日は遠くまで往診に行って疲れたので、勉強はおやすみしてテレビを見ている。先生はテーブルを挟んで向こうに座っている。
オレは運動会のようなことをしているバラエティとか、ご当地のお土産を特集している番組とか、料理番組とか、歌番組とか、色んなチャンネルをポチポチ渡り歩いた。
どれもなんか違うなあ。ニュースやってないかな。
そう思って液晶に映る情報を眺めていると、あるチャンネルで手が止まった。
それはBGMのない静かな映像で、どうやら異国の風景を高画質のカメラで撮影しているらしいその番組は、淡々とドイツの風景を流していた。ドイツ特集の回らしい。
きれいな画質で、見覚えのある風景が流れていく。
石畳の道。薄明るい太陽。路面電車。自転車で通る人。通り沿いのテラス。少し古い建物。壁の落書き。
「……ドイツか」
先生がぼそりと言った。
「はい」
オレは画面から目を離さずに相槌をうつ。
「ドイツも地図で見ると、かなり広大だな。西側と東側で風景も異なる部分があると聞くが」
「そうなんですよね」
「この映像に移っている風景は……お前の故郷に近い地域なのか」
「ちょっと離れてますけど、ハイ。ほぼこんな感じです」
上の空で答えながら、オレはそこに暮らす人たちの様子を、静かな都市を、飽きることなく見つめた。
「……なつかしい」
郷愁が声に乗る。そこに居た頃のことを思い出す。そして、その頃のことがごっそりと省かれた、オヤジの大事な話のことを。
オヤジは後悔しないためにドイツに発ったのだと思う。けど、大切なものと引き換えにしたその選択を、その後の人生で後悔していたのも本当なのだろう。
たとえ間違っていない選択でも、間違えた方がマシだったということもある。人の幸せには。
そして、一つの何かを一つの面で語り切ることはできない。そこに他者がいる限り。……そこがオヤジにとって苦い異国だったとしても、オレにとっては甘い故郷であるように。
オヤジがどんな思いでドイツを訪れたのかオレは知らないけれど、オレがどんな思いでドイツを離れたかをオヤジも知らないだろう。
友達の家に遊びに行くのが好きだった。そうではないクラスメイトもいる中で、アジア系であることを気にせず仲良くしてくれた子たち。まるで兄弟がひとり増えたかのようにハグしてくれる、身体の大きな家族たちも。
もうきっと今後の人生であの人たちに会うことは無い。行くこともほぼ無いだろう。医者なんて職業でなければ、もっと身軽に遊びに行ったり、あるいは住み着いてしまったり出来たのかもしれない。
でもオレはもうこの道を選んでしまったから。そして、幸いにもまだそのことを悔いてはいないから。
だから、オレの持ち物は思い出だけだ。オレのために在ってくれる、とてもささやかなもの。
オレを暗がりの中でも暖めてくれるもの。
不意に手の中からリモコンが奪われた。そして、見つめていた映像が消えた。
状況が把握できずぼんやりする間に、いつの間にか先生が目の前にいた。
何も考えず見上げるオレの頬を、あの大きな掌が触れる。
「お前は時々、そういう顔をする」
どういう顔だろう。
分からずに、聞こうと口を開く前に、先生の顔が近づいてきた。
そして普通に、言い訳のしようもなくまっすぐ唇にキスしてきた。
オレは例の電気が走るような感覚と共に、感じていた郷愁が驚きで吹っ飛んでしまう。
ゆっくりと時間をかけて離れた顔を、オレは呆然と見つめた。
「あれ? え? 今のは……普通にダメな位置じゃ……? あれ?」
唐突なルール破りに混乱の極みへと陥るオレに、先生は相変わらず真面目な顔で言った。
「考えたんだが」
「はい……?」
「俺は他にそういう意味で特別な相手などいないし、お前もいないだろう」
「え……ハ、ハイ。まあ。そっスね」
前にした時話したことかと合点がいき、複雑な思いで肯定する。
「なら問題ないと思うんだが。ここでも」
そう言って熱い親指がオレの下唇をなぞった。オレは何だか赤面してしまう。
問題? 問題……あるだろう。多分。え? ないのかな? そんな馬鹿な。
考え込んでしまうオレに、先生がまた近づいてきた。
オレは慌てて制止の声を上げた。
「だ、だめっスよ! アブナイから」
「……何が」
「何がって……」
唇をなぞる指が気になって仕方がない。オレは恥じらいながら小声で言う。
「……好きになっちゃう」
先生は珍しくポカンとして、それから笑った。
「かまわないだろう」
「えぇ……!?」
「何故なら、俺はもうそういう意味でお前が好きだ」
「……えぇ!?」
オレはここ一番の驚きの声を上げた。
え? そうだったの? 本当に? いつから? なんで?
一通り混乱した後、不意に今まで(この人どういうつもりなんだろう)と思っていた距離の近い行動のすべてに納得がいった。
先生は別に距離感のおかしい人ではなかったらしい。おかしくない人が例外的におかしくなっていただけだったんだ。
いやでも、それにしてもそれならそうと流石に言葉が足りないのでは?
あれやこれやの行動の前に先に言うべきだったんじゃないだろうか。色々と。
より考え込んでしまうオレに、急かすように先生の指がオレの耳を揉んだ。
それをされると力が抜けて気が散るからやめてほしい。
変な体勢になった隙に、もう片方の腕がオレを抱き寄せてしまった。もうだめだ。どうにでもしてほしい。
オレはメロメロになった頭で頑張って理性を保ちながら、先生に尋ねた。
「……もう一回してみてもいいですか? キス」
先生はちょっと黙った後言った。
「一回で終わらないなら、していい」
根に持つタイプだ。言葉が足りない上に。そんな気はしてたけど。
でも、オレも人のことを言えた立場ではない。オレは言うことが適当だし、臆病で嘘つきだ。
こないだした時も本当は全然イヤじゃないどころか、すごい気持ちよかった。
覚悟を決めて口づけると、お互いの間に電気が走ったような気がして、ちょっと震えた。
<終>
