はやく笑顔が見たい

 ポップと初めて会った時、人ってこんなに色んな顔をするものなんだって驚いた。
 今まで見た事のある人間の中でも、ひときわ気持ちが分かりやすいやつだった。
 モンスターは機嫌が良いとか悪いとか、何をしたいのかとか見ればすぐ分かるけど、人間はちょっと見ただけじゃ気持ちが分からない。レオナも詳しく話してみて、本当はやさしいんだって分かるまでは何を考えてるのかあんまりわからなかった。
 でもポップはものすごく気持ちが顔に出る。笑ったり、照れたり、得意げだったり、落ち込んだり、むきになったり、慌てたり。ああ今こういう気持ちなんだなっておれにも分かる。
 それとももしかしたら、ほとんどの人間は気持ちが顔に出ない訳じゃなくて、そもそもそんなに色んな気持ちになったり考えたりしないだけなのかもしれない。そこまでしょっちゅう楽しがったり、嬉しがったり、面白がったり、恥ずかしがったり、悔しがったりしないのかもしれない。おれだってこれまで暮らしてきて、笑ったり怒ったり色んな気持ちになってきたけど、ポップほど目まぐるしく大きな反応はしてこなかったと思う。

 ポップは初めて見るような人間の顔をたくさんしたけれど、一番びっくりしたのは、アバン先生が死んでしまって、ポップがすごく大きな声で泣いた時だった。悲しくて悲しくて、ポップの方が死んじゃうんじゃないかと思うような泣き方だった。
 悲しいって気持ちはこんなに強くなるものなんだって思った。何だか怖い気がした。ポップが先生を大好きで、すごく尊敬して、一緒にいるだけですごく嬉しがっていたのは分かっていた。そんな先生をうしなって、二度と会えなくなって、ひび割れてしまいそうなぐらい泣くポップの悲しみはあまりにも強くてまっすぐで、おれは何を言っていいか、これからポップがどうなるのか、どうしたらいいのか全然わからなかった。
 だからおれにはそっとすることしか出来なかったけれど、ポップはおれの旅についてきてくれた。それに、あんなに強い悲しみの後でもポップはちゃんと立ち直っていた。すごく悲しんだ気持ちを覚えて、ずっと忘れないことで、新しい気持ちをその上に増やしていける奴なんだと思った。

 ポップは色んな顔をするけれど、おれに向ける顔で一番多いのは笑った顔だった。不思議なんだけど、先生と話している時のポップはそんなにたくさん笑ってなかったと思う。代わりに甘えるみたいに駄々こねたり、拗ねたり、はっきり笑うんじゃなくてふにゃって気の抜けた笑い方をよくしていた。
 たぶんだけど、おれに対しては楽しいとか面白いとかいう気持ちだけで笑ってるんじゃなくて、おれを笑わせようとして笑っているところがある。楽しいなって、面白いなって、一緒に笑おうって、そうやって笑いかけている。

 じいちゃんがおれのことを忘れてしまったのをポップが思い出させてくれて、おれを叱りながら心配するじいちゃんは久しぶりに会うとなんだかすごく懐かしくて、離れるのがさびしいと思うおれを、やっぱりポップは笑って元気づけてくれた。大丈夫だよって。何も心配いらないって。
 ひどいことをした敵のはずのヒュンケルの気持ちがわかってしまって、すごくおれと似ている気がして、どう闘えばいいか全然わからなくなってしまった時も、ポップはおれが勇者の呪文を使えるように一緒に特訓して、ようやくライデインを出来るようになったら励ますように笑ってくれた。頑張ろうって。
 フレイザードを倒して、レオナを助け出した後も、ポップは自分だってベギラマを新しく覚えたのに、おれがアバンストラッシュを完成させた事の方をすごく喜んで、自分の事みたいに嬉しそうに笑った。すごいぞって。先生も喜んでるって。
 見たこと無いものがたくさん売ってるデパートで、おれはいいから好きなの選べよって笑った時の顔は、何だか機嫌よくおれの話を聞いてる時のじいちゃんみたいだった。

 ベッドで静かに目を閉じているポップの胸に耳をそっと押し当てる。どくんどくんと、動いている心臓の音が聞こえる。
 ぐるぐるに巻いた腕の包帯には血が滲んでいた。竜闘気でついた傷はすぐには治せないらしい。どちらにしろ今は回復機能を体力のために使って、傷の治療はその後の方がいいとレオナが言っていた。おれが見ていなかった時につけられたらしい傷は顔がこわばるぐらいひどいもので、ポップは怖がりなのに、痛がりなのに、どれほど痛くて怖かっただろうと思う。

 記憶を失う前に見た最後の顔は、おれを庇うように前に立ち塞がって、あの人に真剣に怒ってくれた時の横顔だった。気にすんなって、一生懸命おれを元気づけようとしてくれていたポップの手をおれは払ったのに、ポップは本気であの人に言ってくれた。迫害なんかしないって。ダイは人間を滅ぼすのに手を貸したりなんか死んでもしないって。今まで会った誰よりも強いあの人に、一番前で立ち向かってくれた。

 そのあと記憶を失くしている間は怒ってたり、悲しそうだったり、寂しそうだったり、つらそうな顔ばかりさせてしまっていた。けど、何にも分からないままあの人についていかなくちゃと思って、それでも何故かとても怖くて、どうしたらいいか分からなくなったおれのために、ポップはやっぱり笑った。心配すんなって。すぐ終わらせてやるからって。

 最後も笑っていた。泣きながら笑っていた。
 あれが一番記憶に新しいポップの顔だ。あれからポップはまだ一度も笑わないし、泣かないし、喋らないから。その目を開いておれを見てくれないから、あの時のままおれの中のポップが止まっている。だから今おれの目にはあの顔が焼き付いてしまっている。
 そしてその顔を思い出す度に勝手に目の奥が熱くなって、痛くなって、今もポタポタとポップの服に涙を落としてしまう。

「どうして……」
 おれはおまえを。

 はやく目が覚めてほしい。
 止まらない心臓を確かめて、動かないまぶたを穴の開くほど見つめて、また会える時を今か今かと待っている。
 忘れててごめんって、いっぱい無理させてごめんって、たくさんたくさん謝るから、そしたら全部思い出したおれと、もう一度友達になってほしい。
 そしてどうか、おれの姿を見ていつもみたいに笑ってほしい。
 最後に見たあの顔が悲しすぎて、おれは今どうしたらいいかわからない。おまえみたいにまっすぐ悲しんで、それを先まで持っていって強さに出来るような、そんな強さをおれはきっとおまえなしじゃ持つことができない。
 だからどうしようもないおれのために、いつも通りの、でも新しい笑顔を見せて安心させてほしい。
 そしたらおれも笑ってみせるから。二度と迷わないで、おれはおまえが信じてくれる勇者だって、忘れずにいられるから。

 はやくポップの笑った顔が見たい。