サンプリングエラー

「ピッコロさんって、生まれた時はもっと小さかったんですよね?」
「なんだ急に」
「身長の話です」
 ピッコロは妙な顔をしていたが、おもむろに手と手で何もない空間を挟むような仕草をすると「おそらくこれぐらいだ」と言った。
「わあ、ちっちゃいですねえ~。出会った時のデンデくらいかな」
「うるさいな。それが一体何だというんだ」
「いつ今の身長になったんです?」
「さあ……生まれてから数ヵ月ぐらいだったか。一年も掛からなかったと思うが」
「へええ。ピッコロさんも急に大きくなるタイプなんですね。あれ? でもデンデはそうじゃないんですね」
「オレは戦闘タイプのナメック人だからだろう。デンデたちのタイプとは違い、早く戦えるように体が大きくなるのも早いんだ」
「なるほど……」
「それより、ピッコロさん『も』とは、どういう意味だ」
「ああ、いえ、サイヤ人もそういう成長の仕方をするらしいんですよ。段階的ではないというか……ずっと小さな子どもの身長だったのが、急に大人の大きさになるのが普通なんだそうです。おとうさんもベジータさんもそうだったんですって。でもそうかあ、ピッコロさんもそうだったんだって言えば、悟天とトランクスも納得するかなあ」
「悟天とトランクス? あいつらがどうかしたのか」
「いえね、ボクの家のアルバムを遊びで見てたらしいんですけど、二人と同じ歳の頃のボクの身長が二人よりずっと高いと言い出して。写真の中でにいちゃんの身長は少しずつ大きくなっていってるのに、なんでボクたちの身長は伸びないのと騒ぎ出しまして」
「はー……」二人が騒ぐ様が嫌でも想像出来て、思わずピッコロの口からため息が漏れた。
「そもそもサイヤ人はそういうものだ、ボクの方がおかしいんだってベジータさんが説明してくれて、一応納得はしてくれたみたいなんですけど。誤魔化されてるんじゃないかって、いまいちまだ信じ切れないみたいで……でもピッコロさんもそうなら、やっぱり珍しいことじゃないんですよね。二人にもそう言ってみます。やっぱりボクの方がちょっとヘンだったのかもしれませんね」
 あはは、と軽やかに笑って頭を掻く悟飯に、それでいいのかと少し呆れる。少なくとも地球人の成長過程で一般的なのは悟飯の方の筈だが。
 何にせよ絶滅した遠い星の種族の、歴史上類のない異種族とのハーフの生態などピッコロに分かるはずもない。知っているのはただ孫悟飯という一人のサンプルの成長過程だけだ。
「……最近はやっと落ち着いたが、確かにガキの頃のお前は、見る度に見た目が変わっていたな」
「ええ? そんなにですか?」
「ああ。身長も髪も、ちょっと目を離した隙に伸びていた。見た目だけじゃなく気や纏う雰囲気もそうだ。人造人間の来襲に向けて三年間毎日修行で会っていた頃すら、ふと気がつくと大分変わっていることに驚かされるばかりで――」

「……ばかりで?」
 不自然に止まった言葉に悟飯が首を傾げて続きを促すと、ピッコロは突然バッとマントを翻して、話は終わりだとばかりに背を向けてしまった。
「確かにお前の方がヘンだということだ。だから安心しろとあの二人には言っておけ」
「ええっ。そんな、そんなにでしたかあ?」
 ショックだなあ~、という気の抜けた悟飯の声を聞きながら、ピッコロは口をへの字にして閉口する。
 そう、まるで季節ごとの植物のように、あまりにも日々目まぐるしく姿を変えるから。目が離せないと――離れている時間が惜しいと。
 そんな風に思ったこともあったと、気恥ずかしい記憶を思い出して、結局かの異種族から未だ一度も離れたことのないナメック人は今一度ちらりと背後を振り返った。
 そうして目が合うと、そのピッコロにとって唯一のサンプルは、変わらぬ敬慕を滲ませて柔らかく笑った。
 その姿はやはり、変わらずまた、真新しいものに見えた。